ヨーロッパの「理想」はメルトダウン寸前! なぜ現実への対処能力を失ったのか

ベルギー同時テロが照らし出すもの
笠原 敏彦 プロフィール

移民には出身国や言語、宗教などの近似性で集住する傾向が強い。そこに生活習慣、価値観の違いが加わると、コミュニティ間の分断が始まる。人々は異質なコミュニティに無関心となり、その結果、社会の主流から外れた少数派コミュニティは疎外感を持つようになる。

モレンベーク地区がテロの温床となった背景の一因に、多文化主義の失敗があることは疑いない。この多文化主義の失敗は、ホームグロウン・テロリストによるロンドン同時テロ(2005年7月、死者56人)の背景としても指摘された問題である。

テロを受けて、欧州委員会本部前には半旗が掲げられた〔photo〕gettyimages

国家統治が緩んでいる

テロを許した背景には、EU傘下での国家統治の「緩み」という問題もあるように思えてならない。

欧州統合とは、加盟国がその主権を段階的にEUへ委譲していくプロセスだ。主権国家の権限が縮小する中で、言語的・民族的に独自性を持つ地域政府がEUと直結し、発展を目指すというのが一つのトレンドになっている。東西冷戦終結による国家安全保障環境の改善もあり、イギリスのスコットランドやスペインのカタルーニャ地方で急速に独立機運が盛り上がってきた背景である。

ベルギーはある意味で、統合欧州の下での地方の自治権拡大の先例である。この国は、北部のフランデレン地方(オランダ語圏)と南部のワロン地方(フランス語圏)の対立を背景に1993年に連邦制へ移行した。

しかし、国家統治がうまくいっているとはとても思えない。2010年の総選挙では連立交渉がうまくいかず、政治空白が540日も続いた。総選挙後の長期政治空白は常態化しており、2014年5月の総選挙でもミシェル現連立政権発足までに4ヵ月半を要している。

こんな政治空白が許されるのは、強い権限を持つ地域政府があるからだろう。連邦政府は、超国家機構としてのEUと自治権を持つ地方政府の間で存在感の低下が指摘されてきた。

こうした国内事情を背景に、ベルギーはテロ対策で欧州各国の情報機関ネットワークにおける「弱いリンク」と批判されてきた。今回の同時テロでも、ベルギー当局の失態が次々と明るみに出ている。