「失敗は成功のもと」は科学的に正しかった!

脳研究者・池谷先生の新たな発見
池谷 裕二 プロフィール

池谷 今回のような迷路課題の場合、脳内にできる「認知地図」が大きく関わっていると考えられています。認知地図というのは、1948年に心理学者のエドワード・トールマンが提唱した概念ですが、迷路を歩きながら頭の中にできる地図のことです。

トレーニングの初期にいろいろなルートを歩いたほうが、迷路を解くための頭の中の地図の完成度が高いということだと思います。

――迷路を学習したマウスの脳の中では、どんなことが起こっているんですか?

池谷 残念ながら、そこまではまだわかっていません。今後の研究で明らかになっていくと思います。ただ、「場所細胞」のつながりやすさが関係しているのではないか、と私は考えています。

――場所細胞ってなんですか?

池谷 簡単にいうと、ある場所に来たときにだけ、脳の中で発火する神経細胞です。1971年に神経科学者のジョン・オキーフらが発見して、2014年にはノーベル生理学・医学賞を受賞して話題になりましたよね。

たとえば、いま私は10メートル四方の部屋にいて、入口からみて右奥のソファに座っています。この部屋の、この位置に来たときにだけ発火する神経細胞があるのです。それが、場所細胞。いったん場所細胞ができると、けっこう安定的なので、次にこの場所に来たときも同じ場所細胞が発火します。

――それが、迷路の課題の結果とどう関係しているのでしょうか?

池谷 さまざまな場所に対応する場所細胞が脳内でどうつながるか、ということが賢さにつながっているのではないでしょうか。

これは、この道とあの道がつながっているんだということを認識することにも関係していると考えています。初期にいろいろな道に迷い込んで、さまざまな場所細胞ができたマウスほど、場所細胞どうしがうまくリンクできるのかもしれません。

――ということは、方向オンチの私は場所細胞がうまく連携できていないということ?

池谷 ……そういうことかもしれませんね(笑)。方向オンチの人にも場所細胞はある。知識はあっても、知識の使い方がわからないという状況である可能性があります。まさに、こうした問いを今後解いていきたいです。