これでわかる「シリア内戦」の全貌〜そしてイスラーム国が台頭した

絶望が世界を覆い尽くす前に
末近 浩太 プロフィール

ゲームチェンジャーとしてのロシア

ここまで見てきたように、シリア「内戦」は軍事的にも政治的にも膠着が続いてきたが、2015年9月末、それを破るゲームチェンジャーが現れた。ロシアが、アサド政権の正式要請を受けるかたちで、シリアへの大規模な軍事介入を開始したのである。

軍事介入は「対テロ戦争」の名目で進められ、ターゲットはISやアル=カーイダ系のヌスラ戦線に限定するとされた。しかし、実際には、欧米諸国が支援してきた反体制諸派の拠点も空爆の対象にされ、ロシア軍の圧倒的な火力による航空支援を受けたアサド政権の部隊は「失地」を次々に回復していった。

これに対して、欧米諸国をはじめとする反体制諸派の支援国は打つ手を欠き、ロシアの行動を事実上黙認した。その背景には、2015年春頃から深刻化した世界的なテロリズムの拡散と難民・移民の急増があった。

特にその影響を強く受けた欧州は、シリア「内戦」の泥沼化に歯止めをかける何らかの手立てを必要としていた。ロシアは、その欧州の「弱み」を突くかたちで、アサド政権への直接的な軍事支援を敢行したのである。

 

ロシアの参戦による軍事的な均衡の崩壊は、政治的な均衡をも揺るがすこととなった。2015年11月、ジュネーヴ・プロセスのてこ入れのためにウィーンで国際会議が開かれた。

この会議では、米国、ロシア、欧州と中東の各国からなる「国際シリア支援グループ(International Syria Support Group、ISSG)」が結成され、アサド政権と反体制諸派の間の「国民的対話プロセス」のためのテーブルの準備が本格化した。

この会議は、それまで大きな争点となっていたアサド大統領の処遇についての言及がほとんどなかったという点で画期的なものとなった。言い換えれば、反体制諸派を支援してきたプレイヤーたちがアサド政権に対して一定の妥協を見せたのである。

「国際シリア支援グループ」の会合が2月、ミュンヘンで開かれた〔PHOTO〕gettyimages