海外企業のほうが必死に学んでいる「トヨタ」の強さの秘密

日本人が知らない日本最大のグローバル企業
酒井 崇男 プロフィール

しかし工場の話ばかり極めていても、売れないモノのために立派な設備を揃えて巨大な工場を作って喜んでいれば、シャープのように台湾企業の下請けとして生きていくことになります。

あるいは巨大な研究所を作って巨額の研究費を使っていたり、研究のための補助金をばらまいていてもちっとも世界で売れる商品性のあるものができてこない。

こうした理由、つまり技術と商品性(価値)・経済的な利益の関係をそろそろ理解していただかなければいけません。こうした問題を理解する上でTPDの本質について学んでほしいのです。

どうもトヨタシステムは日本では正しく理解されていない。ビジネスマンの間だけではなく、中央官庁の役人や政治家も、日本を代表するグローバル企業の仕組みをまともに知らないという事態になっています。

これは、現在のものつくり産業とはどういうものかを知らないに等しいとも言えるので、極めて困った状況です。これは多くのトヨタOBが指摘しているように、東大や一橋の経済学部や経営学部だけでなく、工学部にも問題があったと言えるでしょう。実業を混乱させる間違ったものつくり論や設計論ではなく、 事実にもとづいた正しい設計論・ものつくり論を日本でも展開しなければなりません。

またこれは工学分野に関して特に言えることですが、技術や研究は最終的に商品価値に結びついてはじめて経済的な価値をもつことも理解していなければなりません。

「売れるモノを売れるとき売れる数だけ売れる順番に」作るといったとき、もっとも肝心な、「売れるモノ」の欠落したトヨタ生産方式、売れるモノがどうできてくるのか説明できない、ものつくり論などばかげた話です。伝統的な三河人が昔から言うように、「売れないモノを作るのは犯罪」だからです。売れないモノを作ることは究極のムダに他なりません。

最近では、そうしたオリジナルから逸脱したトヨタ論が日本国内、特に社会系の学者の間で展開されていて、実害をもたらしています。

たとえば、東大ものつくり研究センターの「すりあわせアーキテクチャ論」はその一つと言えるでしょう。私の前著を読んだ多くのトヨタOBの読者から、「変な話が世の中で展開されて迷惑しているから、間違いを酒井さんからも指摘してくれないか」ということだったので本書ではその点にも軽く触れました。

トヨタでは、昔から、「売れるモノ」(TPD)を「売れるとき売れる数だけ売れる順番に」(TPS)作って成功してきた会社です。歴代のトヨタの社長が「当たり前のことを当たり前にしっかりやる」ということはそういうことを言っています。

売れるモノを生み出すことを担当するのがTPD で、売れるとき売れる数だけ売れる順番に担当するのがTPSです。

TPDがないのにTPSだけを頑張っていてもどうしようもありません。TPD+TPSのトータルのトヨタシステムを、日本人である以上、教養として知っておくべきだと考えています。日本を代表するグローバル企業の仕組みをほとんどの日本人よりも一部の外国人の方が詳しいというおかしな事態はいい加減終わりにしなければいけません。

TPSは当たり前として努力を続ける上で、TPDを学び活用することが、日本の負け組企業が再び世界で勝負するための条件だと言えるでしょう。なぜなら、海外の企業はTPDを部分的にでも体得しているのはもちろん、いまも必死で学んでいるからです。

酒井崇男(さかい たかお)
愛知県岡崎市生まれ。グローバル・ピープル・ソリューションズ代表取締役。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了。大手通信会社研究所勤務を経て独立、人事・組織・製品開発戦略のコンサルティングを行う。リーン開発・製品開発組織のタレント・マネジメ ントについて国内外で講演・指導を行っている。前著『「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』(講談社現代新書)では、グローバル企業の人材戦略について詳細に解き明かし、大きな反響を呼んだ。