海外企業のほうが必死に学んでいる「トヨタ」の強さの秘密

日本人が知らない日本最大のグローバル企業
酒井 崇男 プロフィール

なぜ日本企業はトヨタのマネをしないのか

Q:トヨタがこれほどうまくいっているのに、(自動車業界は別として)なぜほかの日本企業はマネをしようとしなかったんでしょう?

酒井 ここが不可思議なところです。

たとえば、トヨタの主査制度は海外ではリーン開発(リーンとは「ムダのない」「贅肉のない」という意味で、英語圏でトヨタ流を意味する)と呼ばれて学ばれています。トヨタ式は、リーン・アジャイル、ソフトウエア分野ではスクラム・XP・カンバンなどというものになったり、シリコンバレーでもリーンスタートアップとかリーンローンチパッドなどという形で学ばれています。

日本でも有名になったIDEO社のデザインシンキングは、元々親会社だったスチールケース社がリーンの導入に積極的だったこともあり、リーンに強い影響を受けているものです。スタートアップ企業などで議論されるプロダクト・マネージャーの要件とは、トヨタの主査の要件のことです。

ところが情けないことに、日本では最近は翻訳本でトヨタ流を学んでいる人すらいます。

こうしたことの理由として、まず、第一に当該分野における日本の大学の怠慢と無能が挙げられると思います。米国では自国の自動車産業の屈辱的な敗北をきっかけにして、国を挙げて大きな予算をかけてトヨタ式の研究をしてきました。これが、大学や実業界、コンサルティング業界などを経由して社会全体に横展開されてきた。

もちろん、中には情報としては不完全なものや、いい加減なものも含まれています。しかしオリジナルのTPDに近づこうと失敗を積み重ね、試行錯誤しながら努力してきた人がいることは事実としてあります。それが、米国の半導体業界やソフトウエア業界の躍進につながっています。本書をお読みいただけるとわかるように、シリコンバレーのような社会的仕組みにトヨタの仕組みを昇華しているケースも出てきています。

しかし当の日本、リーン母国の日本では、こうした海外での事情は紹介もされず、ほとんど知られてもいません。

私は昨年米国テキサスの国際会議で講演した際、元米国大手自動車会社の幹部と話をする機会がありました。彼は、自国の自動車産業がかつて敗退した最大の理由は「Arrogance(傲慢さ)」にあったと言っていました。かつての米国自動車産業黄金期の成功に酔い、謙虚に学ぶ姿勢を失っていたことが最大の失敗の理由だったというわけです。

その状況は、いまの日本の負け組企業、とくに電機や半導体、通信業界とよく似ています。台湾企業に買収されたり、不適切会計で問題を起こしても当人達はどこまで自分達のことを客観的に見ているのか、と疑問に思う人もいます。事実、彼らは自身の失敗を自分自身の問題として捉えられていないような発言をしています。

結局、科学的に見て、「うまくいっている仕組み」を研究しなければいけません。感情や思い込みは判断の妨げになります。