私たちのDNAの大部分は、「ウイルス」で出来ていた!

最新研究が塗り替えた驚きの「生命」像
中屋敷 均 プロフィール

―生命現象においてDNAなどの遺伝子が重要であることは分かりますが、遺伝子だけもっていれば「生命」と言えるのでしょうか? それにはちょっと違和感もあります。

中屋敷:ウイルスが生命か非生命かという命題に答えが出ないのは、まさにそのあたりの違和感の問題だと思います。

ウイルスとはどんなものかを、大学の新入生向けの講義で話す時には、生物の細胞の中にある遺伝子だけが、細胞の外で独立して生活しているようなもの、と私は説明していますが、ウイルスは確かに遺伝子だけの存在に見えるので、それを「生きている」と表現するのは、ちょっと、という人が多いと思います。

ただ、それって「手足のイドラ」に囚われていませんか?

―ここで「手足のイドラ」ですか(笑)。ただ、普通に考えて遺伝子が複製するためには基質とか酵素とかが必要ですし、遺伝子単独では、情報の保存も変革もできないように思えます。

中屋敷:確かに、現存の生物の姿から考える限りそうなりますよね。しかし、元々、生命はそういった細胞という構造も酵素もない状態から、生まれてきたのではないのでしょうか?

その当時から、DNAやRNAを遺伝物質としていたとするのは、少々無理があると思いますが、DNAやRNAへ情報の伝達が可能なもっと単純な分子から徐々に複雑化してきたという可能性はあるように思うのです。

もし、その当時からずっと同じ原理が発展・展開して現在まで続いているとするなら、そのロジックを内包しているものは、すべて我々と同じ仲間と考えてもよいのではないかというのが、本書の主張の一つです。

―なるほど。仰っていることは分かりました。少し現実から離れた「想像力」が要求されますね(笑)。

中屋敷:では、もう少し具体的な例を出しましょう。

たとえば最近発見されたパンドラウイルスという巨大ウイルスは、遺伝子を2500個以上も持っています。遺伝子数が2500個と言えば、標準的な古細菌のゲノムくらいです。古細菌はもちろん独立して生きている、れっきとした生物です。他の生物の細胞内に寄生とか共生とかしている細菌だと遺伝子数が数百個しかないものもざらにあります。

そういった細菌たちと、変わらないレベル、あるいはより高度かも知れない、複雑さを持つと考えられるウイルスが次々に見つかっているのです。

パンドラウイルスと他のウイルスや大腸菌とのサイズの比較

これまで一般的にウイルスと言うと、遺伝子も数個しかなくて、遺伝子断片みたいなもの、という認識でしたが、ウイルスは決してそんな単純なものだけでなく、そこからかなりの複雑さをもった存在に進化し得ることが示されたと言えます。

もしかしたら、これから例えば10億年後には、現在のウイルスを祖先とする細胞性生物なんてのも出現するかも知れません。そうなると、明らかにウイルスは生物と連続性を持った存在ということになりますよね。