新たな冤罪の可能性も?オリンパス「巨額粉飾決算事件」に残されたナゾ

田中 周紀

そして精根が尽きた

逮捕から約1週間後。検察のシナリオを否定し続ける中川被告に、検事が言い放った。

「そういうことばっかり言ってると、ライブドアの社長みたいに有罪になっちまうよ。村上ファンドの村上さんはゴメンナサイしちゃったから、裁判で無罪放免になったんだ」

検事が言及した「ライブドアの社長」とは言うまでもなく、06年のライブドア粉飾決算事件で実刑判決を受けたライブドアの堀江貴文社長。「村上さん」とは同年のニッポン放送株のインサイダー取引事件で執行猶予付きの有罪判決を受けた村上世彰氏のことだ。

堀江氏は特捜部の取り調べに一貫して容疑を否認し、93日間にわたって東京拘置所に拘留された。公判でも上告審まで無罪主張を続け、11年4月に懲役2年6ヵ月の実刑判決が確定した。

一方の村上氏は逮捕直前の記者会見で事実関係を認めて謝罪し、検察の取り調べにも容疑を認めた。しかし公判では一転して無罪を主張し、一審で実刑判決を受けて上告審まで争ったが、11年6月に執行猶予付きの有罪判決が確定した。

つまり村上ファンド事件に関する検事の発言は、事実関係が完全に歪められているのだ。しかし両事件の詳しい知識を持たない中川被告は、この発言を契機に「否認を続けていると有罪になり、認めれば解放してもらえる」と考えるようになった。

その数日後、検事は「(ジャイラス社買収の成功報酬としてオリンパスからアクシーズ・グループに与えられた)ジャイラス社の配当優先株の件で、知らないと言うほどマイナスになる」と発言し、さらに中川被告を追い込む。

配当優先株は中川被告ではなく、佐川被告が単独で管理運営していたファンド「アグザム・インベストメント」に08年9月に付与され、10年3月にオリンパスが6億2000万ドルで買い取ったもの。具体的な経緯を何一つ聞かされていなかった中川被告は正直にそう答えていたものの、「真実を伝えてもマイナスに扱われてしまうのか」と絶望的な気分に襲われた。

そして逮捕からほぼ半月後。中川被告は血栓による足の痺れと閉所恐怖症による激しい胸のムカつきに襲われ、取り調べはついに一時中断してしまう。もう限界だった。

中川被告の供述調書には、検事が事実誤認のまま勝手に書き込んでいた部分が多数存在していた。これについて検事は中川被告から訂正を求められていったんは承諾しても、数日後には「あれはボツだ」などと訂正を拒否する始末。精根尽き果てた中川被告は「これ以上拘留を延長されたくない」と決断し、検事が“作文”した虚偽の内容を数多く含む供述調書に次々と署名していった。

(明後日公開予定の後編に続く)