新たな冤罪の可能性も?オリンパス「巨額粉飾決算事件」に残されたナゾ

田中 周紀

「往生際が悪い」と罵倒

検事は「金融商品に巨額の含み損が発生している事実を具体的に説明して協力を求めた」という山田氏や森氏らの供述を前提に、中川被告を取り調べた。だがいずれも数年から十数年前のことで、しかもジャイラス社の買収にはほとんど関わっていないため、中川被告は返答に窮した。一審の第12回公判で、中川被告はこう振り返っている。

「記憶が薄かったというか、とにかく覚えていないことが多かった。オフショア(=タックスヘイブン)との取引の資料はすべて佐川氏の手元にあり、私には極めて断片的なものしか残っていないので、記憶の喚起が非常に難しかった。検事の質問を否定していいのか、肯定していいのかさえ分からなかった」

だが検事は、検察側のシナリオを否定する中川被告の供述を全く取り上げようとはしなかった。例えばオリンパスが含み損を抱えた金融商品の飛ばし先に利用したメディア・トラストは、もともと、オリンパスが92年春ごろに米国の投資信託委託販売会社「OCM」から購入した「配当先取り商品」を移管する目的で、中川被告と佐川被告が設立に協力したものだった。

OCMは95年秋、オリンパスが購入した配当先取り商品を組み合わせた簿外ファンド「オーガニゼーション・ストラクチャー」(OS)の運用手数料を二倍にすると通告。山田氏に泣き付かれた中川被告はニューヨークの佐川被告と相談し、ニューヨークの法律事務所などと協議してOSを「メディア・トラスト」に移管、これによってOCMを排除した。

その後、オリンパスがメディア・トラストをどのように使い、会計処理したのか、中川被告は知る由もなかった。

ところが検事は「要するに損隠しだろう。損を出さないような、そういうスキームでしょうが」と全く聞く耳を持とうとしない。挙句の果てには「それ以外ないよ。だから腹を決めなさい。往生際の悪い奴だ」と中川被告を罵倒する始末だったという。

「メディア・トラストの設立は、OCMの法外な要求からオリンパスを守るためだった」というこのストーリーは、オリンパス側の3人や、中川被告の公判での検察側の冒頭陳述には全く出てこない。これを明らかにしてしまうと「メディア・トラストはオリンパスの含み損の受け皿ファンド」という検察側のシナリオが崩壊してしまうからだ。