新たな冤罪の可能性も?オリンパス「巨額粉飾決算事件」に残されたナゾ

田中 周紀

深刻な体調不良にもかかわらず

こうした状況下で中川被告は、弁護人のアドバイスで「被疑者ノート」を毎日書いた。これは取り調べの具体的な内容や取り調べ担当検事が興味を示した点、それに印象に残った検事の態度や言動などを記録するものだ。

実は中川被告は06年8月以降、甲状腺ホルモンの病気と診断されて継続的に投薬治療を受けたり、動脈瘤の手術をしたり、血栓で脚がむくんだりと、次々と深刻な体調不良に見舞われ、検査や入退院を繰り返していた。

中川被告と佐川被告の「アクシーズ・グループ」は03年初めごろから、オリンパスの依頼を受けて海外の買収相手先を探して交渉を進めた。だが07年9月から本格化したジャイラス社の買収交渉には、体調不良の中川被告はほとんど参加できなかった。

そのためオリンパスの山田氏や森氏らは、ジャイラス社買収に伴う報酬の支払い方法や架空の「のれん代」計上などの経理処理について、中川被告とではなく佐川被告と詰めた。山田氏らから「傍観者」「アウトサイダー」と見做された中川被告は肝心なことを伝えられることなく、一人だけ蚊帳の外に置かれた。

その後も中川被告の深刻な体調不良は変わらなかった。そうした状態のまま、取り調べに応じるため自宅のある香港から帰国したところ、何の前触れもなく逮捕され、狭い独房に拘留されてしまった。

激しい精神的動揺や、生来の閉所恐怖症から生じる不安感、さらには無呼吸症候群による寝不足……。当時の中川被告はとても長期間の拘留や厳しい取り調べに耐えられる状態ではなく、「一刻も早く保釈されて自由の身になりたい」と考えていた。東京拘置所での取り調べは、こうした状況の中で始められたのだ。

取り調べ検事は中川被告に対して、①含み損を抱えた金融商品を隠匿した簿外ファンド群「メディア・トラスト」を英領ケイマン諸島に設立した経緯②含み損を抱えた金融商品を簿外ファンドに飛ばすための資金を外銀のシンガポール支店から調達した経緯③ジャイラス社買収に伴ってアクシーズ・グループに株式報酬が付与され、オリンパスの連結貸借対照表上に「のれん代」が計上された経緯――などについて、検察側のシナリオを押し付けてきた。