プーチン色に染まる世界 〜偏狭なナショナリズムが次々台頭する理由

トランプ現象と共鳴する新たな潮流
笠原 敏彦 プロフィール

シリア情勢が欧州に及ぼしている影響の深刻さは、ポピュリスト政党の台頭に止まるものではない。

EUは8日、難民危機をめぐりトルコと首脳会議を開き、その対応策で大筋合意した。その柱は、EU側がトルコからギリシャに密航した全ての難民・移民をトルコに一端送還し、その中のシリア人と同じ数だけ、EU側がトルコに滞留するシリア難民を受け入れるというものだ。

トルコへ送還するという措置だけでも、人権的な見地から「欧州の理想はどこへ行ったのか」という批判が強い。そして、それ以上にEUの危機的状況を示すのが、トルコの言論弾圧に口をつぐんでいることだ。

エルドアン政権は3月4日、政府批判の急先鋒だったトルコ最大の新聞ザマンを政府の管理下においた。EUはこの問題で沈黙しており、難民問題への協力ほしさから「背に腹は替えられない」とばかり、理想を封印した形になっている。

この欧州の「退化」も、プーチン戦略と無関係とは言えないだろう。筆者が話した欧州の政府・軍首脳らがプーチン大統領への強い不快感を口にしたことが、欧州で高まるロシアへの苛立ちを物語っていた。

なぜこんなことに?

なぜ、こうなってしまったのか。

その原因を考えるとき、明確に浮かび上がるのは、オバマ大統領とプーチン大統領のシリア内戦への個人的コミットメントの濃淡である。

オバマ大統領は一貫してシリア内戦への介入に消極的だった。一昨年9月に空爆に踏み切ったのは、過激派組織「イスラム国(IS)」の支配地域が急拡大して地域の混迷が深まり、アメリカへのテロの脅威も増したからである。オバマ大統領は、シリア内戦への対応を対ISの視点でしか捉えてこなかったように見える。

プーチン大統領のシリア軍事介入の在り方が道義的、人権の観点から厳しく非難されなければならないことは言うまでもない。それでも、プーチン大統領がシリア情勢の行方で主導権を握り、そのことが国際秩序を大きく揺さぶっている事実は動かせない。

ここに至った経緯を振り返るとき、米露両指導者のシリア問題に対するコミットの濃淡が、事態を深刻化させてしまったとしか思えないのである。

笠原敏彦(かさはら・としひこ)
1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒業。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員 (1997~2002年)として欧州情勢のほか、アフガニスタン戦争やユーゴ紛争などを長期取材。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイ トハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)外遊に同行して20ヵ国を訪問。2009~2012年欧州総局長。滞英8年。現在、編集委員・紙面審査 委員。著書に『ふしぎなイギリス』がある。