プーチン色に染まる世界 〜偏狭なナショナリズムが次々台頭する理由

トランプ現象と共鳴する新たな潮流
笠原 敏彦 プロフィール

ある首脳は自国の安全保障上の脅威としてロシアを筆頭に挙げた上で、こう語った。

“プーチンは、オバマ米大統領に「ロシアは地域大国(Regional Power)だ」と言われたことを根に持っている。彼は元KGB(旧ソ連・国家保安委員会)で、「20世紀最大の地政学的悲劇はソ連崩壊だ」と言った男だ。自分が影響力を行使してシリア問題をリードし、米国と並ぶスーパーパワーであることを見せつけたいのだ。

シリア内戦で急に停戦へ舵を切ったのは、かつてのアフガニスタンのように泥沼に入り込みたくないからだろう。プーチンは出口戦略が必要だと思っている”

オバマ大統領の「地域大国」発言とは、ロシアが2014年3月、ウクライナ紛争に絡みクリミア半島を併合した直後に行われたものだ。オバマ氏は「ロシアは近隣諸国を脅す地域大国だ。それは、強さに基づく行動ではなく、弱さに基づくものだ」と批判している。

アメリカ大統領から「弱い」と言われ、プーチン大統領は何を思っただろうか。推して知るべし、である。

そして、それからほぼ2年。プーチン大統領は昨年12月31日、新たな国家安全保障戦略を承認したが、そこでは「世界の紛争の正常化でロシアが果たす役割は強化された」と強調された。

プーチン大統領はシリア内戦を足がかりに、オバマ大統領から受けた屈辱へのリベンジを果たしつつあるのか。

シリア空爆開始後の昨年10月の世論調査では、プーチン大統領の支持率が過去最高の89%にはね上がった。プーチン大統領が「ロシア帝国再興の体現者」というその自画像にほくそ笑んでいてもおかしくはない。

「プーチン化」する世界

ここで、視点をぐっと広げてみたい。すると、世界の「プーチン化」とでも呼びたくなる現象が進んでいることに気づくはずだ。

アメリカ大統領選でのトランプ氏の想定外の躍進は、その一例である。プーチン氏がトランプ氏を「聡明で才能がある」と褒め、トランプ氏はプーチン氏を「力強い指導者」だと称賛している。2人に共通するのは、独善的かつ偏狭なナショナリズムである。

先のエコノミスト誌の記事が指摘しているように、プーチン大統領が欧州のポピュリスト政党を援護射撃する形になっているのも異常な事態だ。

難民危機は、極右政党や暴力的な反移民組織を勢いづかせ、社会・政治を不安定化させている。プーチン大統領のEU分断策は一定の効果を上げていると見るべきだろう。フランスの極右政党「国民戦線」の党首で、来年の大統領選への出馬が予想されるマリーヌ・ルペン党首もプーチン氏を称賛しているという。