植物を植えてもCO2は減らせないって、知っていましたか!?

身近な問題を「地球スケール」で考える
更科 功 プロフィール

大きなスケールで考える

それでは、大気中の二酸化炭素を減少させるにはどうすればよいのだろうか。

大気中の二酸化炭素を減少させるには、式が右辺に動いたところで止めてしまえばよい。もちろん植物も生物だから死ぬのは避けられないけれど、死んだ後にくさらなければ、つまり分解されなければ、式は右辺で止まったままになるはずだ。

つまり、枯れてから湿原などに埋もれて、石炭になればよいのだ。実は石炭の化学式は簡単で、Cである。植物が石炭になれば、式は右に動いたまま固定されることになり、大気中の二酸化炭素は減少することになる。

石炭を増加させれば、二酸化炭素が減少するのである。でも石炭を作るのには何千万年も時間がかかる。一方で石炭は、毎日人類に消費されて、ものすごい勢いで減少している。とりあえずは石炭の減少をくいとめるのが現実的だろう。

これは石炭だけの話ではない。生物がくさらないで固体になったものが石炭で、液体になったものが石油で、気体になったものが天然ガスだが、これらをまとめて化石燃料という。どの化石燃料も、作るのに長い時間がかかる。そしてどの化石燃料も人類にものすごい勢いで消費されている。つまり化石燃料の消費を減少させることが二酸化炭素を減らす現実的な方法なのである。

あれ? これは、自動車の排気ガスなどの規制ってことじゃないか。話がグルリとまわって、結局もとにもどってしまった。やはりうまい話はないようだ。もちろん植物を植えることはよいことだが、二酸化炭素をずっと減少させ続けてくれるわけではないのである。

じつは、うえに書いた話は、昔の私が疑問に思っていたことである。ところが、こういう初歩的な疑問を解決してくれる本は意外と少ない。

そこで、初歩的な疑問をていねいに説明しながら、宇宙や地球や生物の進化を述べた本を、書かせていただいた。『宇宙からいかにヒトは生まれたか』(新潮選書)である。

私は大学で、この本の内容にちかい講義をしている。その講義を受けた学生の感想で、意外と多いのは「日常生活の悩みが軽くなりました」というものだ。

大きなスケールでものごとを考えているうちに、自分の悩みが小さなものに思えてきたということらしい。

進化に興味をもっておられる方はもちろんだが、日常の忙事を忘れてひと時のタイムトラベルを楽しみたい方のお役にも立てれば、著者として望外の喜びである。

更科 功(さらしな・いさお)
1961年、東京都生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。民間企業勤務を経て大学に戻り、東京大学大学院理学系研究科修了。博士(理学)。専門は分子古生物学。著書に『化石の分子生物学』(講談社現代新書、講談社科学出版賞受賞)、共訳書に『進化の運命』(サイモン・コンウェイ-モリス著、講談社)などがある。現在、東京大学総合研究博物館研究事業協力者、明治大学・立教大学兼任講師、東京学芸大学・早稲田大学・文教大学非常勤講師。