電通マンが実践する「鬼気くばり」の極意を見よ!

ホイチョイ・プロダクションズ

小さな貸しをたくさん作る

鬼気くばりその29 クリップは絶対に相手の社名や「御中」にかけない

高倉健の古い歌の歌詞に、「義理と人情を秤に掛けりゃ、義理が重たい男の世界」というくだりがある。「義理」とは、言い換えれば「借り」のことだ。日本のビジネス社会は、「貸し」「借り」を基軸通貨として、ものごとが回っていた。「借り」に鈍感なヤツは相手にされないし、「借り」を返さないヤツには仕事は回って来ない。

だから、何かにつけて相手に小さな「貸し」を作っておいて、その「貸し」を貯めて、どこかでまとめて返してもらう。それが日本の商慣習の基本であることに、会社に入って4~5年経ってから気がついた。

電通の営業は、得意先(それも、決裁権のある得意先)に対して、小さな「貸し」をできるだけたくさん作っておく、あるいは小さな「借り」をできるだけ作らないようにする、ということについて、端倪(たんげい)すべからざる技術を身につけていた。

得意先にいつでも差し上げられるように安物のペンを2本いつも持ち歩く。得意先の好みの銘柄のタバコを常に携行している。電話をかけた相手が留守だったとき、「折り返し電話ください」とは絶対に言わずに必ず「こちらからまたかけ直します」と言うし、得意先との飲み会やゴルフには必ず写真係を用意し、撮った写真を後でお届けする――

そういった細かな気くばりのノウハウが会社を挙げて伝承され、ビジネス上の大きな成果を生んでいる。あたかも、ゾウリを温めて偉くなった木下藤吉郎のように……。電通という会社は、社を挙げて木下藤吉郎になろうとしている!

そのことに気づいたのは、さらに4~5年後、自分も仕事上である程度の判断を任されるようになった後のことだ。

もちろん、博報堂の若い社員が、無礼というわけでは決してない。むしろ、キモチのいい好人物が多い。好きな作家の話や、最近見た映画の話で心から盛り上がれるのは、電通より博報堂社員との方だ。

平社員のうちはそれでよかったが、自分がある程度仕事を任され、多忙になって、リアルなサービスを求めるようになると、話は別だった。