「過疎の町のパン屋」が実践する、利潤を追わない経営哲学

ポスト資本主義、人口減少社会の最前線から
講演後のパネルディスカッションの様子。左が平川克美氏、右が高柳寛樹氏

聞き手には高柳寛樹氏に加え、起業家・文筆家にしてビジネスデザイン研究科の特任教授を務める平川克美氏も席を並べた。平川氏には『小商いのすすめ』(ミシマ社、2012年1月刊)、『経済成長という病』(講談社現代新書、2009年4月刊)、『移行期的混乱―経済成長神話の終わり』(ちくま文庫、2013年1月刊)などの著書があり、以前から自著でタルマーリーの取り組みを紹介し、「小商い」の実践例として評価していた。

この日の特別公開講座は、定員200名の大教室で開かれた。開始時刻の10分ほど前に会場はほぼ満席、タルマーリーへの期待の高さが窺えた。この記事では、現地取材の様子を交えながら、講座のハイライトをお届けする。

田舎でこだわる「DIY」の店づくり

タルマーリーが店を構える鳥取県智頭町は、町の面積の90%以上を森林が占める。江戸時代から林業が盛んで、戦後の復興期は木材需要の高まりで町はかつてないほど潤った。だが、その後の木材輸入自由化による国内林業衰退の影響を、智頭町も逃れることはできなかった。今では高齢化率は37.55%に達し、毎年のように人口が減り続ける。典型的な地方の過疎の町と言えるだろう。

智頭町は鳥取市からクルマで45分ほど、店舗のある那岐地区は、智頭町中心部からクルマで10分ほどの距離だ。店舗は、かつて使われていた保育園を町から借りて使用している。背後には山のいただき、周辺には田んぼが広がる。まさに里山の一画と言える場所に店はある。

庭を含めた敷地面積は500坪ほど(およそ1650平米)、建築面積500平米のこの物件の家賃は、「東京の駐車場代ほど」と渡邉氏は言う。この家賃の安さが事業経営上の利点となるのは間違いないだろう。だが、周辺には商店らしきものさえ見当たらず、こんなところで店が成り立つのかと心配になるほどの立地だ。そういう場所にもかかわらず、休日には大勢の人が訪れる。敷地脇に設けた18台が駐車可能な駐車場がいっぱいになることも少なくない。

建物のなかには、パン工房と新たに取り組むビール工房のほか、店でつくるパンやピザを出すカフェスペースがある。こうした店の内外装工事や機材の搬 入を、屋根の補修や電気・ガス・水道などの工事を除いて、タルマーリーはほとんど自分たちの手で行った。「DIY(Do It Yourself)」の店づくりだ。

実は、「タルマーリー」が店を構えるのは智頭町が3ヶ所目だ。

山に守られるようにして店舗がある。里山の一画でつくられるパンを、大勢の人が求めにやってくる
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