日本の犯罪報道、ここがヘン!〜だから、治安がいいのに「犯罪不安」が止まらない

牧野 智和 プロフィール

事件を丁寧に報じるアメリカ

こうした状況に対して、アメリカではどうでしょうか。多くの事件は、日本とは異なりかなりまとまった「お話」として届けられます。

たとえば『ニューヨーク・タイムズ』2011年12月12日の「元警察幹部が税務調査官の妻をクイーンズで殺害」という記事は、特段注目された事件というわけではないのですが、事件発覚から1日ほどの間に、殺害された妻が日常的に行っている業務、妻の同僚の証言、複数の隣人の証言、容疑者が課されると想定される刑罰、そして妻の母親もかつて殺害されたことなどの情報が手際よく並べられ、事件の情景がその登場人物として浮かび上がってくる「お話」のように報じられています。

さらに、論評記事もしばしばみることができます。

レストランチェーン「ワッフルハウス」で起きた強盗事件を扱った記事(『ニューヨーク・タイムズ』2011年11月27日)では、アメリカ南部では多くの事件が「ワッフルハウス」を一つの起点として起こっていること――テロ攻撃の相談の場、逃亡中の容疑者が食事をとる場、強盗の対象となる場となっていること――に触れながら、南部の生活に深く浸透しているワッフルハウス(24時間営業で、どこにでもあって便利)の営業規制は容易ではないという話に展開していく記事です。

具体的な事件を手がかりにしながら、より広い社会的背景について考察を展開するこのような記事は、週に1件程度みることができるものです。日本の場合は、かなり話題となる事件でなければ、こうした論評に展開することはありません。

裁判報道に重心を置くイギリス

ではイギリスではどうでしょうか、と考えてみたいのですが、イギリスでは事件の発生と捜査にどの新聞も焦点を当てているわけではありません。下図は、犯罪報道を「発生・逮捕」「捜査」「裁判・収監・釈放」「論評」の4カテゴリーに区分して集計したものです。

太字部分は各紙で最も多いカテゴリー。2012年5月14日から5月20日までの一週間分の記事を集計

記事サンプルをとる時期を変えれば傾向が変わる可能性がありますが、少なくともこの調査期間を例にする限りでは、イギリスの3紙は事件発生・逮捕に関する報道の割合が顕著に小さく、裁判・収監・釈放に明らかな焦点があることが分かります。

アメリカも、日本に比べれば焦点が分散していますが、日本の各紙は全国紙から地方紙まで、どれも一貫して発生・逮捕を最も多く扱っています。

イギリスの場合、事件発生・逮捕に関する報道があったとしても、その多くは短報で済まされます。加害容疑そのものではなく、それが結果として司法の現場でどう処理され、収監されることになったかどうか、あるいは無罪を勝ち取り釈放されたかどうかに焦点が当てられているわけです。これは高級紙であっても、『デイリー・メール』のような(穏当な)タブロイド紙であっても同様です。

裁判報道の場合、どのような事件において報道が過熱するのでしょうか。2011年末に積極的に取り上げられていたのは黒人少年の殺害に関する裁判で、その論点は、加害容疑がかけられている二人の元少年の加害行為自体よりは、そこに人種差別的背景があったかという点にありました。

サッカーでの人種差別事件が引き合いに出される記事もあり、この事件は単なる殺人事件ではなく、人種差別や白人ギャングの問題と重ねられて注目の的となっていたのでした。こうした社会問題的な側面も合わせ、結局事件が司法の場でどう決着をみたのかが詳細に報じられているのです。