関東大震災の真実に涙が止まらない!~90年間”抹殺”されていた「奇跡の物語」

全壊の横浜刑務所で何が起きたのか
牧村 康正 プロフィール

人間を簡単に差別したらあかん

二村登場する女性の中でも、主人公の一人、福田サキさんがすばらしいですね。サキの兄・達也は無実の罪で横浜刑務所に服役していて、解放によって母とサキが待つ実家に帰る。もちろん24時間以内に横浜へ戻らなければならないんやけど、被災したサキの友人を見捨てることができなくて苦悩する。

そこでサキは達也の身代わりとなって40キロの危険な道のりをたどり、横浜へ向かうことになります。ご本にもお書きになっていますが、坂本さんは、サキさんと直接お会いされたんですよね。

坂本:これはサキさんに直接聞いた話です。サキさんの娘さんが刑務官になって横浜拘置支所にいまして、その縁で、サキさんのご自宅に訪ねて行って、この特異な体験談を聞くことができたのです。考えてみれば、かなり奇跡的な巡り会いですよね。

この本の取材ではこういう不思議な出会いがいくつもありました。目に見えない導きがあったとしか思えないんですけど。ところで、二村さんは、元シンクロナイズドスイミングの日本代表でいらっしゃるんですよね。

二村シンクロがオリンピックの正式種目になったのは1984年のロサンゼルス五輪からです。でもその時はソロ競技だけ。私は8人競技のチームのメンバーだったんで出ていません。日本チームの五輪参加はもうちょっと後です。

私が出場したのは環太平洋パンパシフィック大会のメキシコ大会と名古屋大会です。名古屋ではアメリカ、カナダに次いで日本が3位でした。コーチはもちろん、井村雅代さん。とても厳しい方でしたけど、結果を必ず出す方です。また、プライベートでも一番苦しかった時に心に寄り添ってくださる方でした。うちの『作家と読者の集い』にも来ていただきました。

さっきの話の関連で言えば、シンクロの世界でもコーチになって審判の資格を取得し、上級審判員に上がっていったりすると、永峰っぽい人がいましたね(笑)。だから組織のややこしい部分は少し経験しました。どこの世界でもあることなんでしょうけど。

二村さん、3位となった環太平洋パシフィック大会にて(左から三番目。真ん中は井村雅代コーチ)

坂本:本書はさきほど申し上げましたとおり、すべて、取材をもとにして書いたもので、福田達也、サキさんなどは実名ですが、実名にすることで、ご子孫にご迷惑がかかるかもしれない人の名前や、永峰のような悪役など、匿名にしたり、何人かの人物を合成したりしています。ともあれ、『典獄』、二村さんに気に入ってもらってよかったです。

二村椎名さんの生き方を伝えたいんです。なぜかというと、1000人もいる囚人の顏と名前を全員覚えてはったんですよね。お互いを対等の人間と認める信頼関係を大切にしようと考えておられたと思います。

世の中には、刑務官とか保護観察官とか鑑定医とか、人間相手で理解されづらい仕事って、けっこうあると思うんですよ。学校の先生にしてもね。そこを、この本を読むことでわかってもらえるんじゃないかなって。とくに、この本に教えられたのは、たまたま罪を犯したからと言って差別したらあかんなぁ……ということです。

娘が中学の先生をしています。今ちょっと育休中ですけどね。凄いやんちゃな学校で、いわゆる指導困難校です。娘は一生懸命がんばる先生で、生徒を怒る時は怒るんですけど、怒りっ放しじゃなくて親御さんのとこまで行って、その子をなんで叱ったのか説明したりするから、卒業後も親が電話かけてきはったりするんですよ。「高校を(悪さを咎められて)退学させられるとかこどもがゆうてるのですが……」という相談みたいなね。

そうすると娘はバーッとその高校に電話して「今は休職中だけど、その子の中3の時の担任で、ちょっとやんちゃなとこもある子やけど、けっして悪い人間じゃないから退学にしないでやって欲しい」とお願いするんです。

そしたら今度はその子が交通事故を起こして捕まったと、また親から電話かかってきたらしくて、警察まで行ったらしいんですよ、面会にね。それで、署名とかしたら少年院送りじゃなくて出れるみたいやねんけども、そういうことをやることが、その子にとっていいことなのかどうか、すごく考えたらしいんです。

娘が悩みながら家へ帰って旦那さんに「署名をどうするべきか」ということも含めて相談したら、「もう、自分たちの子供もできてんから(先生の仕事も大切だけど、家族も大事だから)、そういう付き合い控えたらどうかな……」と言われたらしいんです。

ちょうど、私がこの『典獄』を読んでてね、「旦那さんの言い分は違うと思う。やっぱり、あんたがやってることが正しいと思うよ」と言ったんです。そのくらい、この本は人間を簡単に差別したらあかんていうことをしっかり書いてますよね。

坂本:いや、その話を聞いた時にちょっと涙出てきてね。娘さんにもお会いしたんですけど。

二村私もこの本を読んでなかったらね、どちらかというと娘を止めたかもしれないんですよ。やっぱり親としての人情って、そうでしょう。でも、もっと大切なことをこの本に教えてもらったというか。