加瀬 ところが日本人はどうしても唾液腺と美意識が重ならなかったんですね。それで遣隋使や遣唐使は豚や羊ではなく、梅の苗を持ち帰ってきた。それからお茶と榊。ですから万葉集でいちばん出てくる花は梅なんです。
シマジ なるほど。桜が幅を利かせるのはもっとずっと後で、昔の日本では花と言えば梅のことだったんですね。
加瀬 そうそう。干支の話をもうひとつしますと、ベトナムでは「兎年」がないのをご存じですか。代わりにあるのはなんと「猫年」なんですよ。その話を聞いてすぐ、真相が知りたくて、わざわざベトナム大使館に電話してしまいました。
すると日本語が上手な書記官が出てきて「まことにそうです」という。さらに付け加えて「猫のお蔭で本国は大変助かっています」というんですよ。「どうして?」と訊いたら、「日本では動物愛護の観点から猫を捕まえて三味線を作ることが出来なくなったので、いまはわが国から猫の革を輸出しています。それで大変助かっています」といっていました。
ですからいま新品で売られている三味線の革はほとんどがベトナム製なんでしょうね。おっと、そろそろお暇しないと講演に間に合わない。ではみなさん、ごきげんよう。シマジさん、また飲みましょうね。
シマジ 喜んで。是非また面白い話を聞かせてください。
〈了〉
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