「世界遺産」は期待されすぎ!? 岩と虚構で成り立つ「首里城」、定番スポットの光と影

岡本 亮輔 プロフィール
4つの城跡のひとつ「今帰仁城跡」

飾り文句としての「世界遺産」

首里城跡は単体で世界遺産登録されたのではない。前回とり上げた斎場御嶽のような聖地や王墓の他、4つの城跡が一緒に登録されている。そのうちの一つが今帰仁(なきじん)城跡だ。この城跡は那覇から車で90分ほどかかる今帰仁村にある。

今帰仁城は、琉球が統一される以前、北山・中山・南山の三山時代の北山王の居城だ。北山が滅ぼされると、首里から送り込まれた監守が駐在するようになり、北部の統治を行った。城内には琉球七御嶽の一つもある。

今帰仁城跡内の御嶽

現在、今帰仁城跡に何があるかというと、主に城壁がある。どちらも遺構には違いないが、一度地上から姿を消した首里城と比べれば、今帰仁城跡には、はるかにものが残されている。蛇行しながら伸びる石積みの城壁は一見の価値がある。

しかし、今帰仁城跡は観光地として栄えるかというと、それは難しい。那覇から90km近くも離れている。三山時代の勝者である首里城とは異なり、観光客に受けの良い物語もない。その点で言えば、1993年、復元を見計らったようにNHK大河ドラマ『琉球の風』が半年間放映され、首里城にまつわる物語を全国に流し続けたのとは対照的だ。

今帰仁城跡は、首里城と同じ世界遺産であり、多くのものが残されている。だが、その訪問者数は比べることもできないだろう。今帰仁城跡にとって、近くに美ら海水族館ができたのは数少ない幸運だと言える。

今帰仁城跡の公式サイトを見てみると、一番力を入れて宣伝されているのは「世界遺産ウェディング」だ。30万円前後の費用で、琉球の伝統衣装を着て、城内の好きな場所で挙式できるという。この他に目立つイベントと言えば、9年前から行われている「今帰仁グスク桜まつり」と夜間の城壁のライトアップなどである。

文化財として価値があり、世界遺産に登録されても、ものを演出してくれる物語がなく、観光地としての利便性に欠けると、「世界遺産」は結婚式場やイベントスペースにつける飾り文句くらいにしかならない。

世界遺産登録というと頭をよぎる映像がある。申請作業の関係者、自治体の人々、地域住民などが公民館のような場所にカラフルなはっぴを着て集まり、登録決定が報じられると花吹雪が舞うというものだ。世界遺産登録さえされれば人が大量に押し寄せ、お金を落とし、毎日がお祭り状態になる。そんな期待があるのではないだろうか。

登録後も、さまざまなイベントに世界遺産は使われる。兵庫県では「世界遺産姫路城マラソン」が開催される。福岡県では「明治日本の産業革命遺産」の登録を目指すために結成された女性ユニット「世界遺産登録レディ・MI6」が、熊本県では「炭坑ガールズ」が活躍している。

岩手県では6月29日を「平泉世界遺産の日」にする条例が制定された。昨年6月の「平泉世界遺産祭2015」には、民俗芸能の早池峰神楽から「いわて国体ダンスPR隊」、地元の高校生シンガーソングライターまでが登場し、祝い餅つき振舞隊が無料で餅を振る舞い、「世界遺産平泉で心も身体もキレイ」になるためにヨガのエクササイズも行われている。

一応は対象の保護を理念とする世界遺産が、観光振興の切り札として期待されすぎではないだろうか。ユネスコという一組織の認定にすぎない。しかも、十分に政治的だ。たとえば台湾には世界遺産は存在しない。国連から国家として承認されていないからだ。ユネスコの掲げる「普遍性」など、国境を超えない程度のものにすぎない。