
荒木さんがいなければ、僕の「ルーティン」は完成しなかった――五郎丸歩
ラグビー日本代表の快進撃を支えた、メンタルコーチの荒木香織さん。アメリカの大学院でスポーツ心理学の博士課程を修めたメンタルトレーナーである彼女が、『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』を上梓した。五郎丸と二人三脚で「ルーティン」を作りあげた筆者だから書ける秘話が詰まったこの一冊。その一部を特別公開する。
【第1回】「メンタルコーチとしての仕事」はこちらからご覧ください。
「目標はより高く」は本当か
「目標は高いほうがいい」
よくそう言われます。
言うなれば「ドリームゴール」を設定し、そこに向かってコツコツ努力していくという考え方です。
ただ、自分の能力や現状を無視して目標を設定しても、達成できないばかりか、自信を喪失し、モチベーションを失うこともあります。
「少しがんばれば達成できる」
スポーツ心理学では、そういう目標を設定するのが、いちばん適切だとされています。
いまの自分にはちょっと高いかもしれないけれど、その実現に向けて前向きに取り組む。その結果、達成したことが自信となり、そこからはじめて次のステップに進むことができるということが研究で明らかになっているのです。
エディさんは、そのあたりの目標設定が絶妙でした。
エディ・ジャパンがスタートしたとき、エディさんが掲げた目標は「世界のトップ10入り」でした。当時の日本は15位でした。世界の上位8強――南半球のニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、北半球のイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランス――とそれ以下のチームは正直、力の差があります。その差を埋めるのは、容易ではない。でも、残りのふたつに入ることは、決して不可能な目標ではありませんでした。
「ちょっとがんばればいける」
そういう目標でした。いきなり「トップ4」を目指すと言われても、選手には現実感がなかったでしょう。でも、「トップ10」ならば、「できるかも」と思ったはずです。