世界の貧困を終わらせるために、私たちができること〜ウェブ時代の「倫理的な生き方」とは?

シリコンバレーで大注目
池田 純一 プロフィール

功利主義の急先鋒

シンガーからすれば、「効果的ではない」利他主義者とは、もっぱら「共感」に基づく情緒的な判断から寄付を行う人たちであり、その多くは「最大の効果」が実践されるところまで気を配らず、寄付した事実で満足できてしまう人たちである。

そこからシンガーは、アメリカでは半ば習慣として行われる地域コミュニティや芸術活動等への寄付よりも、最貧国の人びとの救済にこそ照準すべきだ、というところまで踏み込んでいく。つまり、複数のチャリティがあった場合、AではなくBのチャリティこそを選択せよ、という彼の倫理観が前面にでてくる。

このあたりは、シンガーが倫理学の中でも功利主義と呼ばれる考え方の急先鋒であることにもよる。

「最大多数の最大幸福」としばしば要約される功利主義の特徴とは、帰結主義幸福主義総和最大化主義の三つである(児玉聡『功利主義入門』。児玉はシンガーの『あなたが救える命』の翻訳者でもある)。

行為の動機よりも帰結を重視する功利主義は、ある行為が引き起こす帰結を全て考慮にいれるという点で理性的であり未来的である。また、人びとの幸福を最大化しようとする点で計量的志向をもつ。

ただしこうした功利主義的側面が強調され過ぎると、さすがにそれはどうなのだろうと疑問を感じる人たちも出てくる。the most goodに達さずともthe more goodのレベルでもよいのではないかという疑問だ。

要するに、第一フェーズのEA(個々のチャリティ事業の透明化・合理化)は納得できるが、しかし、第二フェーズのEA(世界的な貧困撲滅等を最優先の寄付目標とする)には承服しかねるという立場だ。特に名指しで寄付先として劣後すると言われた学芸団体(大学や音楽・演劇などの芸術活動団体)からの反論は多い。

寄付する側からも、寄付先の選定の際、より効率的にミッションを達成している団体が明らかになるのは確かに参考になるが、しかし、そもそも何に寄付するかは、寄付者の価値観次第であり、寄付者の自由のはずだという声もある。

このあたりのシンガーの議論への反論は、ウェブを検索すれば容易に見つけることができる。そうした反論者の一人が、シンガーも著書で取り上げているデイヴィッド・ブルックスだ。