世界の貧困を終わらせるために、私たちができること〜ウェブ時代の「倫理的な生き方」とは?

シリコンバレーで大注目
池田 純一 プロフィール

 「最大の善」とは何か?

こうしたメタチャリティの台頭を受けて第二フェーズでは、主には寄付行為の動機付けといったチャリティに関わる人びとの内面のあり方に踏み込む団体が現れた。

収入の固定割合の寄付の意義を説くGiving What We Canや、“earning to give(寄付するために稼ぐ)”という方針を掲げふさわしい職業を考える80,000 Hoursのような団体だ(8万時間とは平均的な生涯労働時間数のことを指す)。

興味深いのは、第一フェーズは、リゴラスな方法で既存のシステムを最適化することに長けた金融アナリストやエンジニアが活動の中心であったのに対して、第二フェーズは学者、それもオックスフォード大学の若い研究者の活動が目立ったことだ。オックスフォードの倫理学講座は「善行の最大化」をよしとする帰結主義(功利主義)の研究者が多く存在したからだという。

シンガー自身もオックスフォードで博士号を取得していた。Giving What We Canにしても80,000 Hoursにしても、オックスフォードの倫理学者で現在28歳のウィリアム・マッカスキルが創業に関わっている。

先述したようにEAの中心的考え方は、原著タイトルの“The Most Good You Can Do” (「君にできる最大の善行」)が雄弁に語っているように、「一番多くの善行」の実践にある。

ここで「一番多くの」という具合に善行をランク付けするためにはデータ化や計量化が不可欠なわけだが、それを実践する意志とノウハウをもつのが、ハイテクやファイナンスの世界でリゴラスな思考習慣に慣れたミレニアル世代だった。

その点で、データ比較が中心の第一段階では、the most good(最大の善)の実践というよりもthe more good(よりよい善)の探求が中心だったといえる。

その究極が「最善」となるのだが、そこで導き役となったのがシンガーだった。シリコンバレーやウォール街で若くして多額の資産を得たミレニアル世代が「最大の善行とはなんだろう」と疑問に思った際に辿り着いたのがシンガーの著作だったわけだ。

特に国境を越えたチャリティの意義を説いた『あなたが救える命(“The Life You Can Save”)』は、2010年刊行というタイミングもあり、EAの活動の核をなす一冊となった。

では、その核となったシンガーの考え方とはどのようなものだろうか。