「最強」とはなにか。日本人で初めてムエタイ王者になったキックの鉄人に聞いてみた

【最強さん、いらっしゃい!】
細田 マサシ

2試合で計31回のダウン

藤原 ちょいちょい夜の練習にも行くようになったとはいえ、それも時々だし、技も何も教わってはいないんだけどさ。でも、せっかく先生がそう言うんだからって思ってやってみることにしたの。

──勇気ある!
藤原 そのときに、自分の中で誓いを立てたんだ。「とりあえず3戦やってみよう」と。3戦やって1勝2敗と負け越したらこれは才能がないってことだから、すっぱりあきらめようと。そしたらデビュー戦、2RKOで勝っちゃうんだよ。

──ちなみに相手は赤坂ジムの坂井田さんって選手ですね。
藤原 何も教わってなかったけど、とりあえずは倒せた。そしたらさっき言ったように、2戦目と3戦目、タイ人と組まれてボロ負けしちゃうんだよ。

──14回のダウンと、17回のダウンですからね。
藤原 当時はフリーノックダウンだから、何度倒されても、立ちあがったら試合続行よ。

──今なら1ラウンド3度のダウンでTKO負けですよ。
藤原 14回ダウンで負けた試合の直後に先生が「次の試合も決めたから」って(笑)

──次々に決めるんですね(笑)。
藤原 そしたら試合は一カ月後。相手はまたタイ人。今度は17回も倒されて。でもさ、倒されても倒されても、無意識に起き上がってたんだよ。

──痛いとか怖いとかは?
藤原 そんな感覚もないの。「倒されたから立たなきゃ」でもない。本当に無意識にぴょこんと起き上がっていた。あれを本能っていうんだろうな。

──うわあ……。
藤原 俺の試合を見て「この藤原って奴は面白い」って先生は思ったらしい。それで気に入ったって後から聞いた。ただ、タイ人が恐ろしそうな顔で俺を見たのは憶えている(笑)。

──タイ人がドン引きしたんですね(笑)。
藤原 試合が終わったら即入院。本郷の東大病院に担ぎ込まれたの。

──さすがにそうなりますよ。ただ気になるのは、この試練の3戦は1勝2敗で負け越してますよね。ということは、辞めようと思ったんですか?
藤原 それが逆。とにかく悔しくて。だって、いくら相手が子供の頃からやっている歴戦のムエタイの選手でも、同じくらいの年齢で同じ体重なんだよ。これが大鵬みたいな巨漢の力士と戦ったわけじゃない。体格の差があればそんなに悔しくなかったろうよ。

──確かに。
藤原 でもさ、いくらキャリアが違うとはいっても、こんな屈辱ないなあって。だから東大病院のベッドでずっと悔しがってた。早く練習してえなと。