東京大学・物価のスペシャリストが提唱!「賃金ターゲットが日本経済を救う」

アベノミクスはもう古い?
藤岡 雅 プロフィール

賃金がまったく上がらない理由

アベノミクスは「デフレ脱却」を目指してはじまりました。その第一の矢は、大規模な金融緩和を行うことで、「円安」に誘導し、「物価を上昇」させることに主眼が置かれました。いわゆる「インフレ・ターゲッティング」です。しかし、アベノミクスの経済的効果は、「円安→物価上昇→賃金上昇」というノルム(経済規範)を成立させることにより達成されます。つまり「賃金上昇」こそが、アベノミクスの最終目標なのです。

デフレ期を思い出してほしい。当時は「円高」により「物価が下落」し続けました。その結果、我々の「賃金も下落」してしまったのです。つまりデフレ期のノルムは「円高→物価下落→賃金下落」でした。デフレ期が引き起こしたのは「賃金の下落」だったのです。これを反転させて、「賃金を上昇させる」ことが、アベノミクスの掲げる「デフレ脱却」の本当の目的です。

しかしアベノミクスが始まって3年もたつのに、賃金は上がらない。その理由は様々ですが、概して企業、消費者、労働組合が「デフレマインド」を捨てきれないことにあると私は見ています。

価格を決める企業がまず、価格を上げられていない。その言い訳として、競争が激しいことがよくあげられています。確かに歓楽街には居酒屋が溢れ、驚くような安い値段で食べられる定食もある。また年初にスキー客を乗せた長距離バスが横転して、大学生を含む15人もの方々が亡くなった例を見ても、バス業界では激しい価格競争を強いられている。

しかし、サービス業の競争が激しいのは日本だけではありません。それなのに日本だけサービス価格が上がらないのは、価格を上げると同業他社に顧客を奪われてしまうという過度な恐怖心を企業や経営者が持っているからでしょう。「デフレのメンタリティ」から抜け出せていないということです。

消費者も同じです。デフレ下で物価は下がり続けたので、過去20年間、「明日は今日よりも値段が下がる」という経験を、我々は何度もしてきました。待っていれば価格が下がるものだという考え方に、我々は支配されています。こうした消費行動が、企業が価格を上げられない理由にもなっています。その結果、物価は上がらず、我々の賃金も一向に上がってこないのです。

また、デフレのメンタリティを最も象徴しているのは労働組合です。昨年、一昨年と2回の春闘での賃上げは全く不十分でした。円安の恩恵を受けた輸出企業では、ベアが満額回答されるなど奮闘したように見えますが、そうした労組でさえも、本来の役割を果たしているとは言えません。