東京大学・物価のスペシャリストが提唱!「賃金ターゲットが日本経済を救う」

アベノミクスはもう古い?
藤岡 雅 プロフィール

サービス価格がまったく上がっていない

初めに、物価上昇の状況から説明しましょう。私が渡辺広太・明治大学准教授と共同で開発した「東大日次物価指数」は、約300店舗のスーパーマーケットのレジのポスシステムと連動しており、レジで記録されている商品の価格と数量の情報から、日々の物価を計測しています。どのような商品が、いくらで販売されたかを的確に、瞬時に把握できるので、高い精度で、また迅速に、その日の物価を把握することができます。

現在、日銀は「インフレ・ターゲット」と称して、年率2%の物価上昇を目指しています。13年4月に日銀が大規模な金融緩和を実施し、その後、直近のマイナス金利導入も含めて2回、金融緩和を拡大させました。その結果、13年4月当時の東大指数は前年比マイナス1.5%だったのが、現在は前年比プラス1.5%程度で推移しています。

東大指数は総務省の発表する物価指数よりも0.6%ほど低く出る傾向がある。つまり東大指数だけを見れば、日銀・黒田総裁が掲げている「年率2%の物価上昇」はすでに達成されているのです。

ところが、総務省が発表している実際の消費者物価指数(CPI)は、「総合」で0.2%(15年12月)にとどまっている。東大物価指数は主に日用品の物価の動向を示しますが、総合CPIは日用品も含むあらゆる物価の動向を示しています。CPIが低水準でとどまっているのは、原油安の影響もありますが、日用品以外の物価、とりわけ「サービス物価」が上がっていないからです。

冒頭に私が示した、地下鉄の運賃、外食、理容室、宅配、そして大学の授業料は、すべて「サービス価格」です。概してサービス業におけるコストの多くは人件費。サービス物価が上がらない限り、企業は人件費というコストを抑制しつづけなければならない。つまり、このサービス物価が上がらないことには、我々の賃金も上がらないのです。

確かに円安の恩恵を受けた輸出業の正社員や、東北大震災の復興需要やオリンピック需要で、建設業従事者の賃金は上昇している。しかしサービス産業の従事者は、全体の7割にも及びます。この分野で賃金が上がらないことには、大方の国民の賃金は改善されないのです。

これは忌々しき事態です。生活者から見れば、スーパーで購入する日用品など生活必需品の物価は、2%近くも上がっている。消費税8%増税の影響を加えればアベノミクス以前よりも、実に5%も日用品の物価は上がっているのです。

多くの国民がアベノミクスに懐疑的なのは、日常的に通うスーパーの価格が全体的に上がってきているのに、自分の賃金は上がらないという圧迫感があるからです。これでは生活防衛に走り、消費を控えるようになるのは当然のことでしょう。

では、どうすればいいのか。答えは明白で、「賃上げ」をやればいい。