ルポ・「地獄」の介護現場~虐待・セクハラ・逆ギレ……職員の「質の劣化」が止まらない

絶望的な負のスパイラル
中村 淳彦 プロフィール

そして介護は破壊された

世界金融危機のあった2009年に、厚生労働省は失業者を対象とした「重点分野雇用創造事業」を行い、失業者や果てはホームレスまで介護職に送り込むプロジェクトを大々的に繰り広げた。

希望者の全入職だけではとどまらず、人材不足の介護が雇用政策に利用されたことで、介護という職業は生活保護の代替となり、介護現場は完全に破壊された。

さらに、離職率の高さも問題となっている。3年で半数以上、5年でほぼすべての職員が辞める。しかも介護から逃げるのは、問題を抱える人物ではなく、介護を辞めても他に転職先があるまともな人々たちだ。

長く介護福祉を支えてきたベテランや、高齢化社会に対して意識がある人たちが、荒廃する介護現場の現実に絶望し、嫌気がさして辞めてしまう。人材と介護の質の劣化は止まることがなく負のスパイラルに陥っている。

「介護報酬の引き下げがトドメです。我慢するか辞めるか、ずっと迷っていたけど、もう、どうにもならない」

現在、多くの介護事業所の零細経営者や、施設責任者の管理者が苦悶の表情でこう口を揃える。

介護職の低賃金は社会問題とされているので、知っている人も多いだろう。介護保険が施行されてから現在まで  “安い・低い” と叫ばれ続ける中、2015年4月に介護報酬が大幅に引き下げられた。これは審議会で議論が繰り返され、国会にも取り上げられて、社会全体で問題が共有された状況で出された結論である。

これまで介護職は、普通に働いても生活ができない貧困状態だったが、これからはさらなる困窮に陥る。これまでの「生かさず殺さず」から「最低限生存できる程度まで下げよう」というメッセージが国から送られてしまったのだ。

介護職に対しては、まだまだ善良で優しい人材をイメージする人が大半だろう。しかし現実はその逆だ。彼らは「経済的貧困」と「関係性の貧困」をダブルで抱える社会的弱者だ。止まらない人材の質の低下が重なって、現在の介護現場は温かさどころか、常に根深い不満が渦巻く。

自分が貧しい弱者なのに、他人である高齢者に笑顔で「豊かな老後」を提供できるはずがない。現在の介護現場は、心に余裕のない貧しい者たちがいがみ合い、罵り合い、奪い合い、弱者イジメが蔓延する絶望的な風景が日常となっている。