「聖地」と「世界遺産」が好きすぎるニッポン人
~物語化する観光がはらむ“アブない一面”

岡本 亮輔 プロフィール
従来の文化財行政と日本遺産の違い(公式パンフレットより)

失敗事例を含めて考える必要性

国内では、昨年、政府主導で「日本遺産」が作られた。これは、世界遺産登録を視野に入れつつ、各自治体が応募してきたものを文化庁が認定する制度だ。

注目したいのは、文化財や記録物のようなものではなく、「ストーリー」が選定されることだ。各自治体は、それぞれが所有する文化財についての物語を作り上げ、それが文化庁によって審査されるのである。

日本遺産に認定されたもののタイトルは、「津和野今昔~百景図を歩く~」「かかあ天下―ぐんまの絹物語―」「灯り舞う半島 能登~熱狂のキリコ祭り~」「『信長公のおもてなし』が息づく戦国城下町・岐阜」「日本国創成のとき―飛鳥を翔た女性たち―」など平成27年度時点で18件にのぼる。

すでにあった風景・文化財・社会的慣習に物語をあたえ、それらをあらためて見るに値するものとして再発見する手法だ。日本遺産には、ものよりも、それにまつわる物語こそが重要だという考え方がはっきりと表れている。ただの岩と木も、神話と伝説で彩ってしまえば、人は見に訪れるのだ。

最近では、世界遺産登録を目指す「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」がユネスコの諮問機関の審査をうけて、日本政府が推薦書を取り下げることになった。

簡単にまとめれば、日本側が用意した「キリスト教の伝来・禁教・復活」という物語が却下され、「禁教」だけをクローズアップした物語に書き換えるようにという指摘がなされたのだ。問題になっているのは、教会群の物としての性質ではない。それに対する「語り」が問題視されたのである。

物語化による観光は、箱物行政などと比べれば、はるかに少ないコストで観光地を作り出すことができる。

だが、詳しく見てみると、世界遺産登録された物件の中にも、その物語とそぐわないために無視されるような場所がある。あるいは、世界遺産登録されたものに限らず、日本各地には、複数の物語が衝突する場所、なんとか物語を編み出したが上手く広まらない場所などがある。

物語化の成功事例だけでなく、失敗事例も含めて考えることで、現代の観光地がどのように作られ、観光客はそこでどのような体験を求めているのかが見えてくるはずである。

岡本亮輔(おかもと・りょうすけ)
北海道大学大学院観光創造専攻・准教授。専攻は宗教学と観光社会学。1979年東京生まれ。立命館大学文学部卒。筑波大学大学院人文社会科学研究科修了。博士(文学)。著書に『聖地と祈りの宗教社会学――巡礼ツーリズムが生み出す共同性』(春風社、2012)、『聖地巡礼――世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書、2015)。共編著に『聖地巡礼ツーリズム』(弘文堂、2012)、『宗教と社会のフロンティア』(勁草書房、2012)。共訳書に『宗教社会学―宗教と社会のダイナミックス』(明石書店、2008)。

聖地巡礼――世界遺産からアニメの舞台まで岡本亮輔(842円、中央公論新社)

非日常的な空間である聖地―。観光地として名高い聖地には、信仰心とは無縁の人々が数多く足を運んでいる。さらに近年では、宗教と直接関係のない場も聖地と呼ばれ、関心を集めている。人は何を求めて、そこへ向かうのか? サンティアゴ巡礼、四国遍路、パワースポット、アニメの舞台……信仰なき観光客が足を運ぶ聖地を論じ、現代の宗教と社会を読み解く。