陛下の前で涙を流した彼らは何者か
~放置され続けたフィリピン「無国籍邦人」という問題

北島 純 プロフィール

救済はなされていない

そのため、これまでの調査で存在が確認された3545名の残留日本人リストの中で、日本国籍を取得するに至らなかった者は実に2483名にのぼる。そして、外務省によれば、残留日本人の高齢化が進む今日、そのうち生存している者は1199名とされている。

こうした状況に対して、民間レベルでの懸命の支援活動は続いている。フィリピン日系人リーガルサポートセンター(PNLSC)は、日本財団の支援を得て、就籍手続に必要な面接を実施するための「集団一時帰国事業」を実施している。

外務省も、「無国籍者」でありフィリピン政府からフィリピン国民としての旅券を発給してもらえない残留日本人に対して、「短期滞在査証(ビザ)を貼付した渡航証明書」を特例として手数料免除で発行したり、在フィリピン大使館が保管している約2100件の「ファミリーファイル」(残留日本人の家系図)を家裁での審判に提供したりする等の支援を行っている。

しかし、家庭裁判所における審判の運用は相変わらず厳格だ。支援事業の結果として就籍を実現できた者は、現在までに、僅か168名に過ぎない。

これはあまりにも少ない数ではないだろうか。1200名近いフィリピン残留2世は、当時の国籍法に照らせば、「日本人」そのものであり、その「日本人」を救済することは、国にとって極めて重要な課題のはずだ。しかし、厳格な事実認定を要求する裁判所の手続を前にして、救済がなされているとはいえないのが現実だ。

このまま、現在のような「杓子定規な対応」が続くとしたら、高齢化した日系2世全員を救済することは不可能のように思える。それで本当にいいのだろうか。

実はこの問題はこれまでも、たびたび国会で議論され、日本・フィリピン友好議員連盟も特別委員会を立ち上げて取り組んでいる。しかし、国民世論の関心が高いとまでは言えないこともあり、残念ながら就籍手続の壁は依然として厚いままだ。

2015年7月、フィリンピン残留日本人の代表者が来日し、安倍晋三首相に対して「孤児名簿の作成、公開調査の実施、日本フィリピン両政府の協議を実施してもらいたい」とする旨の要望書を手渡した。

安倍総理は「皆様が70年間の困難な道のりを歩んできたことに想いをいたしつつ、日本国としてもご苦労に報いていきたい」と述べ、残留日本人を感動させたと伝えられている。

11月に開かれた参議院予算委員会でも、安倍総理は、フィリピン残留2世が「日本人としての誇り」を持ち続けていることに敬意を表し、「今後は実態調査を拡充するとともに、家庭裁判所において、日本国民として認定される可能性を高めるように、政府職員を調査に立ち会わせることで当該調査の信頼性を一層高めていく」と答弁している。