これまで行政がらみの利権といえば、道路とハコモノばかり叩かれてきた。だが、この「IT利権」にも、負けず劣らず長い歴史がある。建物や高速道路のような「ブツ」が残らないために、注目されなかっただけなのだ。
「一般にはあまり知られていませんが、行政システムの発注先は、半世紀前から現在のマイナンバーシステムに至るまで、ずっと同じ数社の企業に絞られてきました。
'60年代に行政の電子化を進めることが決まったとき、IBMなどの海外製システムを輸入するのではなく、NECや日立、富士通などの日本企業にシステムを開発させ、育てることをいわば国策で決めた。この方針は、いまだに暗黙の了解として生きています」(前出・全国紙社会部記者)
事実上の「公共事業」で国内の産業を育てたことには、確かに意義もあっただろう。ただ時代が下って、住基ネットの実務を担う組織が生まれる頃には、その実態は端的に言って「天下りと癒着の巣窟」と化していた。
「住基ネットの管理は、全国9ブロックに1つずつ置かれた『地方自治情報センター』が担っていました。この組織では設立以来、ずっと自治事務次官・総務事務次官がトップに天下り、NECなどからの出向者が実務を担当してきたのです」(前出・全国紙社会部記者)
同センターの月々の役員報酬は、理事クラスで80万円以上と、決して安くはない。しかも、住基ネットが消えた今でも、同センターは「地方公共団体情報システム機構」と看板をかけかえ、マイナンバーの管理組織としてしっかり存続している。
つまり住基ネットとマイナンバーは、半世紀前から連綿と続く、官民一体となった「IT利権」の本流なのである。
かつて住基ネット導入に反対していた、弁護士の水永誠二氏が言う。
「住基ネットもマイナンバーも、究極的には、納税者を番号で追跡できるようにすることが主眼でしょう。ですからマイナンバーは、行政側にはメリットがあるかもしれませんが、国民のメリットは、政府が喧伝しているほどにはありません。
そもそも、『利便性』とは何なのか。『マイナンバーがあればコンビニで住民票が取れる』と言いますが、それは住基ネットでもできたことです」
では、なぜ国は住基ネットを再利用せず、新たにマイナンバーというシステムを作り直すことにしたのか——ここまでくれば、その答えも察しが付くだろう。ハコモノ行政が消えた今、マイナンバーこそが最大の「公共事業」ということだ。
現在、全国各地の公共施設や駅などには、住基カードで住民票・証明書の交付が自動で受けられる「証明書自動交付機」が設けられている。
前出の「地方公共団体情報システム機構」は「自動交付機が全国で何台あるかは把握していない」(担当者)とのことだが、少なく見積もって各自治体に3台ずつあるとしても、5000台を下らない。中には住基ネットの終了で使えなくなり、マイナンバーカード対応型に置き換えられるものも多く、当然カネがかかる。