女性装の東大教授が見つけた「新しい家族」のカタチ

結婚「制度」は本当に必要か?
小野 美由紀 プロフィール

2人で依存先を増やして、変化し続けること

では、現在の結婚制度で結びついたカップルが“クラッシュ”せずに関係を維持するにはどうしたらよいのだろうか?

「私自身かつては、普通に結婚するのは当たり前のことだと思い込んでいた。けれどそれは、私が当時展開していた思想からしても、随分おかしなことだった。実際、今のパートナーは、私がそうする姿を見て、奇妙なことをするな、と思っていたそうです。

しかし、当たり前だと思い込んでいると、まぁいいや、みたいな感じで、ズルズルっとトコロテンみたいに『結婚』へとなだれ込んでしまい、子どもを作ってしまう。それは今思えばとても恐ろしいこと。

こんな恐ろしい失敗を犯さないために、私と彼女とが、どうしても結婚するという学生や若い人に薦めているのはね、結婚する時に、離婚届にも一枚ずつサインして、交換しておくこと。“縁切寺”を自分で用意しとく。その提案をして、ヤダって言われたら、その相手はヤバいから結婚しないほうがいい」

 

いつでも離婚できる状態にすることで、制度に甘えず関係性を維持するということだろうか。しかし、それは裏を返せば互いが互いを常に注視し、プレッシャーを与え合っている状態だとも言える。建設的な方法で、夫婦が関係性を維持することは不可能なのだろうか。

「正解は、2人で依存先を外に増やしてくこと。共に関係が外に広がっていくことが大切。本来人間はいろんな相手に依存し合って生きるもの。なのに今では、結婚したら付き合いが減ってしまうでしょう。依存先が伴侶だけに限定されちゃう。だからおかしくなるし、孤独になる。

ずっと結婚していようと思ったら、一番良いのは一緒にビジネスをやることだね。仲違いなんかしてたら飯喰えなくなるから(笑)。

あとはね、両方が変化し続けること。普通に考えて、同じ2人の人間がずっと飽きずに何十年もセックスし続けるのなんて無理だと思わない? でも、お互いが変化してたら、飽きない。喧嘩して、全身全霊を通じてぶつかって、掛け値なしのレベルでコミュニケーションしてたら、互いに変化し続けていられる。

“変わる”っていうのは良い事なんだよ。どちらかが進んでどちらかが止まっていたら、関係は破綻する。どちらも止まったら、関係は腐れ縁になる。けれど互いに変わり続けたら、関係は維持される」

安冨の話を聞いていると、2人の人間が立場を捨てて互いに愛し合い続けることは、だいぶ難しいことのように思える。そう言うと、安冨は朗らかにこう言った。

「それは本当は簡単なはず。だって、愛は人間の本性だから」

人生の盲点に、人は簡単に気づく事はできない。盲点はたくさんある。今も、昔も、未来も。しかし、だからこそ、人は変化できるし、試行錯誤のすえに新しい関係性の形を生み出せるのではないだろうか。

無条件の愛を向けられることに対する恐怖心

今の安冨は、既存の婚姻制度や性別による縛りを越え、女性装によって「ありのまま」の生を回復した。しかし、そんな自分を認められたからといって、両親を簡単に許せるわけではないと言う。イヤな思い出が消えるわけではないし、連絡を取る気にもならない。

「母は愛情なしに、義務感だけで、完璧に育児をするという恐ろしいことをやってのけた人間。離婚した途端、もう私の話は誰にもしなくなったらしい」

きっと、私についての記憶を消去しているんじゃないかな、と言う時、少しだけ安冨の表情にゆらぎがあった。

今でも、自分が人から愛されていると感じるためのレセプターを持っているとは思えないと言う。

「“私の話が面白いからでしょ、面白い話をしないと、みんなどっか行っちゃうでしょ”みたいな感じ。“いい子にしていないと愛されない”というトレーニングを子供のころから受けていたから、“なにかしないと愛されない”という感じなの。無前提の愛情を受け入れることへの恐怖感がハンパないんだよね」