祝!芥川賞受賞
作家・本谷有希子、主婦の目を通して見える世界

特別インタビュー
週刊現代 プロフィール

意外です(笑)。さて、旦那さんは外ではきちんと働いていますが、家では「何も考えたくない」といってずっとテレビを眺めているような人。この人物像については。

旦那さんも最初、いろんなタイプを考えました。外で働きすぎている分、家ではラクすることだけを考える人物が出てきた時に、作品として手応えを感じました。それなら間接的に、外の大変そうな空気を家のなかに持ち込めますし。

旦那さんは家ではラクをしたい、妻もそれに同化すべき、と思っています。サンちゃんは、どこかでそのラクさに呑みこまれていいのかという気持ちがありますが、のらくらしているので、さほど気にせずにいます。

そんな彼女はある日、自分の顔が夫とそっくりだと気づきます。

夫婦が似てくるというのはよく聞く話ですよね。それは幸せの象徴でもありますが、すごく薄気味悪さも感じます。今回はその薄気味悪さがだんだん濃くなっていくように書きました。

超現実的なほうが核心が伝わることもある

結婚のイメージについて、2匹の蛇が互いをしっぽからどんどん食べて、最後は頭と頭だけになった〝蛇ボール〟に重ねる話が印象的でした。

子供の頃から蛇がお互いを食べあい、最後は無になるというイメージがあって、それが今回、結婚のイメージに結びつきました。

自分が別のものに呑みこまれて変えられていくという感覚と同時に、自分も相手を別のものにゆっくり変えていく。それが結婚というものなのかな、と考えました。

同じマンションの住人のキタヱさん夫婦は、猫があちこちに粗相する癖が治らず悩んでいます。このご夫婦を登場させたのはどうしてですか。

猫の粗相は私の実体験で、平穏な日常がそんなささいなことで崩れていくと実感したんです。サンちゃんのほうに生活が続いていく部分を体現してもらっているので、キタヱさんには生活が一瞬で崩れる部分を担ってもらいました。どちらも私にとっては現実です。

ただ、サンちゃんの日常も変化がないわけではないです。一行書いては次の一行を考えるという書き方をしていくうちに、旦那さんの怠惰がどんどんエスカレートして、サンちゃんもどんどん図太くなりました。でも、女の人が自立していくかのように見えて実はそうではない、という展開です。

最後にはとても奇妙で、象徴的な場面が訪れます。そこも含め、この作品には超現実的な場面がありますね。旦那さんの目鼻までもが怠惰になって、人が見ていない時にだらけているという描写には笑いました。

昔は現実に起きる事柄だけ書いていましたが、最近はありえない現象も大胆に書くようになりました。そのほうが核心がはっきり伝わることもある。わざとぼかして描くことで普遍性が生まれるのは面白いですね。