気鋭の憲法学者・木村草太が説く「安保法制にこれから歯止めをかける方法」

木村 草太 プロフィール

(2)武力行使の範囲の曖昧さ

また、そもそも、武力行使の範囲がはっきりしていない点も深刻だ。武力行使とは、主権国家が主権国家に対してする実力行使をいう。強大な力を持つ主権国家が、同じく強大な力を持つ主権国家を相手に武器を使おうというのだから、武力行使の条件はしっかりと法律によってコントロールされなければいけないはずだ。

今回の法制では、存立危機事態であれば武力行使ができるとしている。しかし、存立危機事態とはどのような事態なのか、その肝心な部分がなんともあやふやだ。

例えば、安倍首相は2014年7月14日の閉会中審議で、ホルムズ海峡が機雷で封鎖され、石油の値段が高騰したら、存立危機事態に当たると説明していた。しかし、条文によれば存立危機事態とは、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」だ。オイルショックがこれに該当すると言われても、首をかしげる人は多いだろう。

自衛権研究の専門家である森肇志教授(東京大学・国際法)も、「ホルムズ海峡問題になると、これを国際法上の集団的自衛権で正当化するのは可能ですが、逆に存立危機事態に当たる事例になるのかは私も疑問を持ちます」と指摘する(法律時報87巻10号71頁)。

さらに、国会で安保法制に賛成の立場を表明した参考人・公述人ですら、存立危機事態条項が不明確であると指摘している。村田晃嗣公述人は「存立危機事態でありますとかあるいは重要影響事態というのは、確かに、概念としてなかなか理解しにくい、そして曖昧な部分を含んでいることは否めない」とし(平成27年7月13日衆議院安保特別委員会)、宮家邦彦参考人は、存立危機事態条項が「明確な定義をしていない」と認めている(平成27年9月8日参議院安保特別委員会)。

法案への賛成者ですら、「条文が明確だ」と説明するのではなく、「曖昧だが仕方がない」と開き直らざるを得ないという事実は大問題だ。この条文を放置すれば、どのような武力行使が許されるかが曖昧になり、政府や現場の暴走に歯止めが利かなくなる危険がある。

曖昧不明確な法律は、法律によって権力を統制するという「法の支配」の原則に反する。そんな法律はまともな「立法」とは言えず、憲法41条に違反する。これは法律学の基本中の基本だ。つまり、存立危機事態条項は、憲法9条適合性を問題とする以前に、文言として曖昧不明確ゆえに違憲無効ではないかとの疑いも強い。