脳はこんなにダマされている〜気鋭の脳科学者が明かす「ココロの盲点」

『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版』
池谷 裕二 プロフィール

こうした暗黙の前提を読み解く作業は、とくに意識せずに自動で行われます。つまり「反射」です。素早く不要な選択肢を排除しておけば、余計なことに気を配る手間を省略できますから、効率よく世の中を生きられるようになります。

一方、子供たちは経験不足から、しばしば(大人から見れば)取るに足らない些細な部分につまずきます。ですから、複雑な仕事になると、どうしても時間が掛かってしまいます。成長するにつれて人生経験が豊富になります。すると反射的解釈が正確かつ迅速になり、生きるのが楽になります。これこそが直感がもたらす最大の恩恵です。

ただし、直感はいつでも正しいとは限りません。特殊な条件が揃うと、「勘違い」に陥ってしまうこともあります。たとえば、先のイラストは、下図のような場面もありえます。

前後の奥行きはなく、両者は並んでいますが、上下の関係が異なるというシーンです。直感にしたがっているだけでは、この背景にはほぼ思い至りません。こうした想定外の前提が背後にある場合、認識と事実にズレが生じることがあります。これが「認知バイアス」です。

認知バイアスは、そうとわかっていても、つい落とし穴にはまり、なかなか修正することができません。だからこそ認知バイアスなのです。

人は自分のクセに無自覚であるという事実に無自覚です。他人のクセには容易に気づくことができても、案外と、自分自身のクセに気づかないまま自信満々に生きているものです。最大の未知は自分自身なのです。

本当の自分の姿に気づかないまま一生を終えるなんてもったいない――。せっかく人間に生まれてきたのですから、自分の認知バイアスについて知っておくのは、決して悪いことではありません。本書の意図はここにあります。本書は、心の盲点を知るための手引き、いわば「心の辞書」です。

人間は心の多面体です。だから認知バイアスにはたくさんの項目があります。本書では古典例から最新例までを慎重に80個選定しました。実感を高めるために、各項目に簡単なクイズを設け、ドリル風にしました。さまざまな形式のクイズを採用しています。

残念ながら本書で取り上げられなかった認知バイアスについては、代表的な225項目を巻末にリストしました。すべて科学的な作法に則って実証されたもので、都市伝説的なネタとは異なります。このリストを、胸に手を当てながら素直に眺めると、図星を指される項目も多く、自戒に胸が疼きます。