為末大が問う「東京五輪っていったい何のためにやるんですか?」

メダル獲得より大事なスポーツの価値とは
佐藤 慶一 プロフィール

なぜパラリンピックに注力するのか

ぼくは引退以来、ずっと2つの路線を走っていました。

ひとつは、スポーツ界のリーダーになること。最終的にはスポーツ庁長官や民間のスポーツ選手が集まる団体・組織のトップのようなポジションになるような将来。もうひとつは、社会にスポーツの価値を提供するために、会社やNPOを立ち上げて事業・活動をすることです。

2015年、ぼくは前者を追うのをやめ、社会の側に立ってスポーツと向き合うことにしました。

ランニング部では子どもの教育分野について、取締役を務める株式会社Xiborg(サイボーグ)では義足の開発・製作を通じて高齢化社会についてアプローチしています。

また、2015年にはブータン五輪委員会のスポーツ親善大使になりましたし、新国立競技場整備計画経緯検証委員会委員という役割も引き受けました。すべての社会問題に対して、スポーツで価値を提供していきたいと思います。

2015年は東京五輪に関してエンブレムや新国立競技場が話題となりましたが、新国立競技場の第三者委員会の経験を振り返ると、実際に会った人はみんな一生懸命にやっている印象を持っています。

しかし、そこには「何に向かってやるのか」ということがありませんでした。報告書にも書かれていますが、たとえば「上限がいくらなのか」については全員に共有されていませんでした。みんながバラバラの数字を頭に浮かべ、お互いに慮り合い、ふわっとした空気ができあがっていました。

だから、いまはオリンピック・パラリンピック全体が不安定というか大丈夫なのかどうかと思ってしまうんです。ぼくは、五輪開催の明確な目的が決まっていないんじゃないかと考えています。

もちろん、「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」といったコンセプトは公開されていますが、具体的なアプローチは見えてきません。どうしてもすべての課題をただ盛り込んでいるだけのように感じます。

五輪について、ぼくはパラリンピックに注力することを決めているので、選手の強化や義足の製作などを通じて応援・貢献していきたいです。パラリンピックを開催することで、高齢化社会に向けた解決の糸口が見えたらいいなと思っています。

わかりやすいところでいえば、パラリンピアンたちが街を点検して、都市計画に反映する。そうすれば、高齢化社会でもバリアフリーになり、みんなが自由に移動できる社会ができると思っています。