ナチス支配下で生きた最大最高の指揮者、フルトヴェングラー

伝説の「第九」を聴きながら鎮魂する
堀川 惠子 プロフィール

年の瀬は、その年にお別れした人の面影が浮かぶ季節でもある。毛利甚八さんは、少年事件に向き合う家裁判事が主人公の人気漫画『家栽の人』の原作者だ。11月、57歳で逝去。前の月に出版した『「家栽の人」から君への遺言』が文字通り遺作となった。

予想される重い内容に、この2ヵ月、本を手に取れないでいた。ようやく読み終えた今、胸の奥は温かい空気に満たされている。

毛利さんは残り少ない自身の命と向き合い、そこで感じた生と死の手触りを、殺人事件を起こしてしまったある少女への言葉に代えて伝えている。

弱い者、脱落した者、罪を犯した者を排除し、再起を許そうとしない不寛容な社会に宛てたメッセージでもある。かつて「家栽の人」に描かれた深く優しい眼差しが、遺作を貫く毛利さんの眼差しと重なった。

本を置いて庭に出た。赤味がかったモミジの葉が、年の瀬の冷たい風の中でしぶとく枝に揺れている。今年の「最後の一葉」はもう少し先になりそうだ。

『週刊現代」2016年1月2・9日号より