ラグビー「ブライトンの奇跡」〜エディ・ジャパンの通訳とメンタルコーチが明かす歴史的偉業の舞台裏

荒木香織×佐藤秀典×野中敬義
週刊現代 プロフィール

なぜスクラムだったのか

野中 僕は後半20分あたりから、試合後のインタビューに備えて決められた部屋でモニターを見ていました。本当はそこにいなくてはいけなかったのに、最後はその部屋から出て、選手の入場口付近で見てしまいました。

佐藤 いてもたってもいられないですよね。

野中 はい。でも、3点ビハインドで迎えた最後のプレーは、同点にするためにペナルティゴール(PG)を選択するだろうと思ったので、リーチ(マイケル)選手がスクラムを選んだときは、ただただ、驚きました。

佐藤 エディさんも「ショット(PG)」の指示を出していましたからね。でも、選手たちがスクラムを選んだのを見て、ペットボトルを投げて「おまえ、言っていないのか! なんでスクラムなんだ!」と怒鳴られました。もちろん、私は指示を伝えているんですよ。

荒木 今だから笑えるけど、そのときは大変だったでしょう。

佐藤 W杯期間中は、いくら怒鳴られても、エディさんを見ないようにしていました。あまりのプレッシャーで縮こまっちゃいますから。ただ、選手たちは、みんなトライを取る、という考えで一致していたそうです。

荒木 五郎丸(歩)さんもキックの用意をしていなかった。今回の日本代表が結成されて以来、キャプテン、副キャプテンらで構成するリーダーズミーティングを定期的に続けていて、結成3年目に出てきた目標が「歴史を変える」「憧れの存在になる」という言葉でした。勝利の手ごたえを感じていたトンプソンルークは試合終盤、「歴史を変えるのは、誰よ!」と、仲間に問いかけて鼓舞したようです。

野中 歴史を変えるには引き分けではなく、勝つことだと。

荒木 そして、今年の目標が「自主性を持ってやっていく」。エディさんが譲れないところもあるんですけど、なるべく選手が決めて、選手が物事を進められるように、話し合ってきていました。

野中 それがまさにあの場面で出たわけですね。

荒木 五郎丸さんも「今年の目標が、最後の瞬間に実現できたね」と言っていたし、代表が結成されて最初の2年間、キャプテンだった廣瀬(俊朗)さんも、選手の勇気ある決断と導かれた結果に、満足そうでした。最後にエディさんを超えた、と言ってもいいのかもしれません。

野中 トライを取った瞬間は、感動して泣いてしまいました。

荒木 私は何も覚えていないんです。勝った瞬間は抱いている息子が泣いていて、落としたらいけないし、でもすごいことになっていて。よくわからないけど、必死でした。