「テロに気をつけろ」と言われても、何を、どう気をつければいいの?

自分の身は自分で守るしかない
菅原 出

生活上の規則の重要性

オフィスや住居などの建物であればセキュリティの完備された施設を選択することができるが、外出時や移動時など、テロや誘拐リスクの高い状況下でのセキュリティ対策はどうすればいいのだろうか。

教科書通りの答えだと、〝身辺警護などのセキュリティ・エスコートをつける〟となると思われるが、よほど治安の悪いイラクのような国でない限り、移動時に身辺警護をつけるような潤沢なセキュリティ予算を持っている日本企業はほとんどない。

そこで対策として考えられるのは、移動範囲や時間帯などを含めた行動や生活上の注意事項を赴任者に徹底させることである。テロとは前述したように、政治的な目的のための暴力行為である。このため当然、政治的な目的を達成するのに適した場所が狙われる。

例えばフランスや米国でムハンマドの風刺画を掲載した週刊紙やイベント会場がテロのターゲットになったように、イスラムの敵である特定の個人や団体は常にISのターゲットになる。イスラエルやユダヤ教関連の施設も常に狙われる。ISが敵視する国の政府機関、政府を象徴する建物、軍や治安機関の施設も典型的なテロのターゲットだ。

また「一匹狼型」テロの対象には、不特定多数が集まり警備の手薄な場所が選ばれることが多い。駅や空港、大型ショッピングセンターやホテル、欧米人が多数集まる有名なカフェやレストランである。

外務省も、テロ警戒情報を発すると常に、「テロの標的となりやすい場所(政府・軍・警察関係施設、公共交通機関、観光施設、デパートや市場など不特定多数が集まる場所)は可能な限り避け、訪れる際には、周囲の状況に注意を払い、不審な状況を察知したら、速やかにその場を離れるなど安全確保に十分注意してください」というコメントをつけている。

要するに、ターゲットになりやすい場所にいる時間を可能な限り少なくすることで、テロに巻き込まれる可能性を下げることが、重要な対策になる。

しかし、「空港を使わなければ渡航できないし、ホテルに滞在してはいけないのであればどこに滞在すればいいのか」との疑問も湧くだろう。

2011年1月24日に、ロシア・ドモジェドヴォ空港で爆破テロが発生したが、これは国際線ターミナルの到着ロビーにいたテロリストが自爆したものだった。それ以前にも、空港のチェックインカウンターに並んでいた観光客が、テロリストに射殺されたテロも複数回発生している。

空港では、特に誰もが出入りすることのできるエリアが最も脆弱なので、出入り口で長時間待つようなことを避け、なるべく早く保安チェックを受けて空港内部に入る等の対策をとることができる。

ホテルも同様で、基本的に誰もがアクセスできる駐車場やゲート付近、出入り口付近が脆弱なので、そうした場所にいる時間を短くすることで、テロ・リスクを下げることができる。

「なんだ、リスクを下げるだけか」と不満に感じられるかもしれないが、リスクをゼロにするセキュリティ対策は存在しない。リスクはあくまで可能な限り下げるしかない。

自分たちが活動するエリアの中に、テロのターゲットになり得るような施設がどこにどれだけあるのか。どこが脆弱なのかを認識して、そうした場所になるべく近づかない。どうしても通過する場合には、そこに滞在する時間を最小限に抑えることで、テロに巻き込まれるリスクを下げるのである。

こうした日常的な注意の積み重ねをする以外、完璧なテロ対策などは存在しないことを認識しなければならない。