村上春樹のライバルたち!? 話題の翻訳家・鴻巣友季子が選んだ2015年の海外小説ベスト12!

年末年始にぜひ読んでほしい「この一冊」
鴻巣 友季子 プロフィール

11 リュドミラ・ウリツカヤ『子供時代』沼野恭子/訳 新潮社

『ソーネチカ』『通訳ダニエル・シュタイン』などがすでに訳されているロシア人作家ウリツカヤによる、大人のための「絵本」です。ロシアでは実際に絵本として売られているとか。収録された6編は、どれも子どもたちをめぐる物語ですが、大人の中にもいまだ住んでいる「子ども」です。

作者の友人による挿絵がちょっと怖くて、なつかしい。舞台は第二次大戦後のスターリン独裁下のソ連と聞いて、ああ、そうか、と思いました。わたしが子どもの頃、ソ連の児童文学がわりと翻訳されており、夢中になって読んだのですが、過酷で、やさしく、怖くて、素朴な世界の手触りが似ています。

12 デイヴィッド・ミッチェル『出島の千の秋(上・下)』土屋政雄/訳 河出書房新社

日本にも長く暮らして、『クラウド・アトラス』で名を知られた作家の最新作は、日本の長崎・出島が舞台です。1779年からの20年ほどを描きますが、物語軸のひとつは、異文化間の恋愛や友愛にあります。主人公でオランダ商館の書記は、故国にフィアンセを残す身ながら、顔に傷跡のある、若く美しい産婆と恋に落ちる――「蝶々夫人」のモチーフですね。

とはいえ、この産婆は高名な医者の元で医学を学ぶエリート学生。ただ待つだけの弱い存在ではありません。ここに、いわゆるカルト教団ものとヒロイン救出譚がからんできます。壮大、重厚で、エンタメの要素も盛り込まれた読み応え抜群の一冊。


番外編 「宇治拾遺物語」町田康/訳(『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集8巻』所収)河出書房新社

番外編で、日本の古典文学の現代語訳を挙げます。最後にして最重要、日本の翻訳史をゆるがす快作。町田康訳により、「こぶとりじいさん」は、「醜さゆえに心を閉ざしていた孤独な男が音楽とダンスの力で自分を解放して幸せをつかむ」という現代的なストーリーに生まれ変わりました。

これは、町田康が「作った」わけではないでしょう。原文という原木の中に潜在していた物語の可能性を彫り出してきたのだと思います。原文への形態的忠実性にこだわってきた日本の翻訳の流れに抗する果敢さ、翻訳文化への高い貢献度、原典の知られざる魅力に光をあてた点、翻訳とは何かを深く考えさせる点などをもって、今年の日本翻訳大賞に推薦してもいいぐらいです!