村上春樹のライバルたち!? 話題の翻訳家・鴻巣友季子が選んだ2015年の海外小説ベスト12!

年末年始にぜひ読んでほしい「この一冊」
鴻巣 友季子 プロフィール

4 ミュリエル・スパーク『ブロディ先生の青春』木村政則/訳 河出書房新社

イギリスの王道作家にして、スパイスの効いた作風のミュリエル・スパークの再評価が日本で始まっているのは、うれしいかぎり。

本作は、型破りな女先生のいる女子校を舞台にした学園コメディとでもいうべき軽快な小説で、先生は精鋭の学生を集めてエリート隊を編成するのですが……今回のリストの2、5、9、10など、テロやクーデターや戦闘を直接的に扱った作品よりも怖いかも! ファシズムや戦争の恐ろしさをじわじわと伝えてきます。スパークのウィットや意地悪さは元々日本人好みのはず。

5 ロベルト・ボラーニョ『アメリカ大陸のナチ文学』野谷文昭/訳 白水社
  ロベルト・ボラーニョ『はるかな星』斎藤文子/訳 白水社

現代ラテンアメリカ文学を代表する作家ボラーニョ。2003年に没しなければ、間違いなくノーベル賞候補者だったと思います。現在、日本でもボラーニョ・コレクションが編まれており、今年は、ボルヘスやシュオブもびっくりの、架空文学事典『アメリカ大陸のナチ文学』と、その最終章から誕生した『はるかな星』が邦訳刊行されました。

後者は、軍事クーデターによりアジェンデ政権が倒れる前後のチリを舞台にし、変幻自在の謎の詩人を追って展開します。双生児、分身、ドッペルゲンガー、精神的な片身、他人の空似(?)など、あらゆるダブルが登場する、恐るべきダブル小説。不穏でおぞましい極上の悪夢です。

6 レアード・ハント『優しい鬼』柴田元幸/訳 朝日新聞出版

訳者の柴田元幸さんは出す翻訳書の数が半端でないので、どれを選ぼうか苦労します。でも、今年はわたし的にはこれしかない! 本書のテーマの一つは「暴力」です。肉体、精神両面からのすさまじい虐待。舞台は1830年代、南北戦争前の米国ケンタッキー州です。そこで養豚場を営むランカスター家の後家として、14歳のジニーが騙されて嫁いでくる。そこは約束された「楽園」ではなく、責め苦の待ち受ける「地獄」だった。

なんとなく、ヒッチコックが映画化した「レベッカ」など想起させますが、異なるのは、ジニーを苛め抜くのが夫本人である点。夫の優しさの仮面の奥には、奴隷たちを酷使する鬼のような人物が隠れていた。奴隷娘たちが味方になってくれるものの、そこにはさらなる裏切りと苦しみが。時代設定は二百年も前から始まり、奴隷制度は消失した(ことになっている)とはいえ、本作を“過去の記憶”として読むことは不可能です。時代を経ても変わらない人間の心の鬼が、静かな筆致で描かれています。その静けさゆえに、沁みる。
 

7 セサル・アイラ『文学会議』柳原孝敦/訳 新潮社

アルゼンチンの作家セサル・アイラが邦訳されたことも今年の収穫だと思います。『文学会議』はなんとも、あきれた中編集(←褒めてます!)。財宝を掘りあてた小説家でマッドサイエンティストの「セサル・アイラ」さんが、実在の作家「カルロス・フエンテス」さんのクローンを作って文学会議に出席させ、世界制覇をもくろむ……って、しょうもなさが炸裂(←褒めてます!)。

併録の「試練」は主人公の女の子がパンク少女二人と出会って、スーパーを襲撃しようとする話。どちらも、芸術映画のセットでB級特撮物を撮ったようなへんてこさです(←褒めてます!)。