なぜ「少年A」の実名報道をためらうのか
~少年法。その”聖域”に踏み込む

藤井 誠二

少年の名前を報じる「例外」もあった

新聞協会では1958年から、少年法の理念とする「少年の可塑性」に同調するかたちで、61条を原則的に遵守することを決め、協会には属さないテレビやラジオ、そしてインターネット媒体等もこれに従ってきた。

しかし、放火、殺人など凶悪な累犯が予想され、警察の捜査に協力が必要だと判断されるケース、少年保護よりも社会的利益の擁護が強く優先する特殊な場合については、氏名や顔写真の掲載を認める例外報道をメディアの各自判断でおこなうこともありえるという条件も付けてきた。

事実、1958年以降も事件が加害者が少年であっても写真掲載や実名報道をする「例外」が数件あったし、2000年6月に岡山で起きた、母親を殺害して自転車で逃走中の少年を実名・顔写真入りで報じるかが議論になったこともあった。死刑判決が確定した「元少年」の実名を報じるかどうか、あるいは再犯事件の場合、「少年期」に起こした犯罪に触れるかどうかも各社で判断はばらばらだ。

こういったメディア各社の「自主的」な判断には、警察庁通達(2003年・警察庁が凶悪逃亡犯が14歳以上にいつては実名・写真を公開して捜査できるというもの)なども影響しているが、これは結果的に新聞協会の取り止めを追認するものとなった。

とはいえ、長年にわたり日本では横一線的な61条遵守は崩れていないまま、一方ではインターネットには実面や顔写真、住所等が真偽入り乱れてあふれ返る野放し状態になっているのが現在のありさまだ。

このメディア状況に対してゲリラ的にヒビを入れてきたのは、記者クラブに加盟していない出版社系週刊誌だったが、どの事件を実名・写真入りで報道するかは時々の編集部の判断に委ねられていて、はっきりとした基準はないと同社の幹部から聞いたことがある。その幹部は数々の少年事件の実名報道の指揮をとった人物だ。

私なりに過去の週刊誌の実名報道の「基準」を考察してみると、事件の凶悪性や残忍性、被害者の年齢(幼子の場合)、加害者に知名度があった場合(芸能人等)、事件の社会的影響力などが条件だろう。

では年齢はどうか。過去のケースを見ると、綾瀬女子高校生監禁殺人の主犯グループの最年少は当時16歳だったが、実名と写真が掲載された。私の記憶ではそれが出版社系週刊誌の実名報道の下限で、イギリスで1933年に起きたバルガー事件のように2 歳の幼児を殺害した二人の少年10歳を実名報道したような例はないはずだ。

これは私の勝手な解釈だが、当時は刑事責任を問うことができる下限年齢の16歳が暗黙の実名報道の境界線になっていたのではないか。現在では改正少年法により14歳でも刑事責任を問うことができる。