先進国を狙う新型テロ「サイバー・パールハーバー」の脅威!

山田 敏弘 プロフィール

数十万円で実行可能

サイバー攻撃を仕掛けるコストは、驚くほど安い。テロ組織でも数十万円から数百万円で、他国のインフラ攻撃に応用できるマルウェアや、ゼロディ(まだ知られていないソフトウェアなどの脆弱性)を手に入れることができるといわれる。そのうえでハッキング能力に長けたシンパや現地の協力者がいれば、テロリストによる大規模サイバー攻撃の現実味はぐっと上がる。

セキュリティ会社ビットディフェンダーのチーフ・ストラテジストであるカタリン・コソイはイギリスの状況を見て、「最悪のシナリオは、携帯から水道供給網、電力やガスにわたるすべてのコミュニケーションと重要インフラを無能化されることだ」と警告している。しかも、テロ組織は地下に潜れば様々な攻撃手段を手に入れられるために、今後その能力が洗練されていく可能性もあるという。

もちろん公表されている以外にも、数多くのサイバー攻撃が世界中のインフラを襲っている。そしてアメリカは予算を増額して、サイバー空間での報復や戦争に向けた対策や準備を着実に行っている。米サイバー軍とNSA(国家安全保障局)は世界各地のネットワークに侵入したり、万単位でコンピューターを支配下に置いたりしている。

いつ起きるか分からないという恐怖

そもそも、世界で初めて他国のインフラにサイバー兵器を送り込んだのはアメリカ自身である。2009年にイランの核燃料施設をサイバー攻撃で破壊したスタックスネットは、アメリカがイスラエルの協力で製作して実行したものだった。

実際に他国のインフラを遠隔操作で破壊したアメリカと、そして親密にセキュリティ情報を共有するイギリスは、自分たちがどれほどの脅威に直面しているのかを誰よりもよくわかっている。今回の予算増額からわかる通り、イギリスがサイバー対策に本腰を入れようと決めたのも頷ける。

ただ、実のところサイバー・パールハーバーが起こるかという点については、懐疑的な見方もある。著者もアメリカで数多くのサイバーセキュリティ関連の会議に出席しているが、サイバー・パールハーバーという言葉はよく耳にするものの、そうした場での議論には、「サイバー攻撃によって今のところ、1人として直接的に殺された人はいない」という意見も出る。

2014年ワシントンDCで行われたセキュリティ・カンファレンスで、サイバーセキュリティに詳しいコロンビア大学上級研究員のジェイソン・ヒーリーは「私たちがデジタル・パールハーバーについて語り始めてから23年が経っているが、まだ起きていない」と語った。

その上で「今のところ、どの国も本気で経済や軍を破壊するまでの攻撃はしないようにしている」と付け加えた。

とはいえ、その脅威がいつ現実になってもおかしくはないことは、専門家たちの誰もが認めるところだ。そしてサイバー・パールハーバーは、起きてから対処しようとしても遅いのである。それゆえに世界各国も、いつ起こるとも知れない大規模サイバー攻撃の対策に力を入れているのだ。

米英以外でも、ドイツはインフラへのサイバー攻撃対策の法整備を進めているし、フランスも最近新たなサイバー防衛強化を発表。イスラエルやシンガポール、韓国なども対策は強化している。

【PHOTO】gettyimages

NSAのマイク・ロジャース長官は2014年11月、米下院情報委員会で「アメリカのインフラは攻撃を受けている」と語っている。そして大事なことは、「そうした攻撃が”起きるかどうか”ではなく、”いつ起きるか”の問題である」と述べた。

米サイバー軍の司令官も兼任しているロジャース長官はこうも主張している。「何か、目を覚ますような攻撃が、2025年まで(10年以内)に起きると確信している」。

テクノロジーとサイバー技術が進化する中で、世界はあと10年でデジタル・パールハーバーに対する準備ができるのだろうか。デジタル・パールハーバーの脅威は確実に迫っていると考えたほうがよさそうだ。