『火花』は入ってる?話題の翻訳家・鴻巣友季子が選んだ2015年の日本小説ベスト12!

年末年始にぜひ読んでほしい「この一冊」
鴻巣 友季子 プロフィール

4 中島京子『長いお別れ』文藝春秋

江戸期に唯一存在した女性大名に取材した2014年の『かたづの!』(集英社)と、本作『長いお別れ』で、あらゆる文学賞を総なめにしている観のある中島京子。チャンドラーの名作とあえて同タイトルを付けた本作は、作者らしい温かみと洞察にあふれた介護小説の傑作です。認知症が進んで奇行を繰り返す東家の父。母(妻)が引き受ける生の重み。介護、看護する家族側の「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」はどうあるべきか?

老人介護とは負け戦であると、わたしは経験上思っています。たとえ病に勝てても、老いを止めることはできない。いかにして負けるか。終始ユーモアを交えた筆致で、終末の長い日々がていねいに綴られます。

5 村田沙耶香『消滅世界』河出書房新社

このところ、性老病死にまつわる問題作を発表している村田沙耶香。前作の『殺人出産』(講談社)に収録されている「余命」では自分の死期とおしゃれな死に方を選べる社会を描き、表題作の「殺人出産」は少子化を問題にし、妊娠と出産が恋愛と結婚から切り離され、国家の管理下におかれるさまを描きました。

「産み人」になって十人計画出産すれば、殺したい人間を一人殺す権利を与えられるという「殺人出産」の続編ともいえるのが、『消滅世界』。そこでは、性交による子づくりはほとんど絶え、男性も出産が可能になり、個体としての親子という概念は崩壊しています。セックス(交尾と呼ばれています)などしようものなら、「今どき昔かたぎのことをするやつ」と思われ、夫婦での交尾に至っては変態行為で、警察の保護対象となります。一作ごとにタブーに切り込む作家です。

6 江國香織『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』朝日新聞出版

江國香織文学の頂点のひとつです(他の「頂点」は私的には、『つめたいよるに』『ウエハースの椅子』『思いわずらうことなく愉しく生きよ』『間宮兄弟』『赤い長靴』『抱擁、あるいはライスには塩を』『犬とハモニカ』など多くありますが)。

孤独で虫たちとしか話さない主人公の少年・拓人。子どもの言葉の世界がひらがなだけで柔らかに掬いあげられる。一方、恋人に夢中の父と、夫を待ち続ける母ら、大人の世界は透明な棘に充ちています。ひんやりと冷たいのに喉を灼く熱いカクテル。

7 磯崎憲一郎『電車道』新潮社

日本の「私小説」を大胆に更新してきた磯崎憲一郎。本作は「日本の近代から現代までの百年を、鉄道開発を背景に描く」などとまとめることが無力に思えてくる快作。

中心には、家を出奔するふたりの男がいます。ひとりは薬屋で、のちに私塾を作る。もうひとりは裕福な元自作農家の出で、電鉄会社を設立。彼らは「知」と「伝達」という近代化に必要な両翼を担うことになるわけです。語りの魔王の面目躍如です。