「信頼される人」になるために、知っておきたいこと〜なぜ人は人を信頼するのか?

得るのは難しく、失うのは簡単
中谷内 一也

何が信頼を導くのか

では、信頼を導く要因を解説しましょう。

社会心理学ではメッセージの送り手への信頼を規定する要素は何か、という研究が古くから行われてきました。そこで最も初期に出された要素は〝専門性〟です。これは先ほどから話題に出ている〝能力〟の一部と考えられます。

朝、天気予報で「今日は一日快晴でしょう」と気象予報士が言うのを聞いて傘を持たずに家を出るのは、気象予報士の専門能力を信じているからです。

この場合、通勤・通学途中で雨が降ったらずぶ濡れになるリスクがありますが、降らなければじゃまな雨傘を持たずにすみ、通勤・通学の快適度が上がります。その意味でメリットを得るためにリスクをとり、気象予報士を信頼していることになります。

また、通勤・通学のバスの中で気楽にメールチェックをしたり、本を読んだりしていられるのは、運転手が必要とされる資格と経験を有し、安全にバスを運転する能力があると見なしているからです。免許を持たない、ハンドルも握ったことのない素人が運転していると知ったら、とてものんきに乗ってなどいられないでしょう。

青鬼に敗れ去った赤鬼に警護を任せられないのは、戦闘能力が低いと評価されるからで、これも能力が信頼に大きく関わっていることを示しています。これらのように、誰かを信頼し、わが身を預けるには、相手に適切な能力が備わっているという認識が必要です。そして、能力は資格や経験・経歴、さらには過去の実績などに基づいて評価されます。

では、それ以外にどんな要素が信頼の基盤にあるでしょうか? たとえば、バスの運転手が非常に高い運転技術を持っていれば、それだけで安心できるのか。おそらくそんなことはないはずです。

運転の荒いドライバーのタクシーやバスに乗車してしまって、ヒヤヒヤした経験をお持ちの方は多いでしょう。そういったドライバーは障害物や歩行者ギリギリのところを通過したりしますので、腕前は確かなのかもしれません。でも、そういう運転手だと、たとえ専門能力が高くても、怖くてわが身を委ねる気にはなれません。

このように、能力以外の信頼に必要な要素に、相手の〝人柄〟としてまとめられるものがあります。具体的に言うと、その人は真面目か、一生懸命に努力するか、公正か、正直か、といったような評価要素です。さらには、他者との関係の中で、思いやりがあるか、温かいか冷たいか、といった要素も信頼に関わってきます。

信頼に限らず、誰か他人を評価するときの評価軸として〝能力〟と〝人柄〟があるというのは対人認知研究の基本と言えます。

その人が携わる業務に関して有能であり、しかも、自分のなすべき業務に真面目に取り組む人柄なら、自分の利害を任せても大丈夫という気持ちになるというわけです。逆に、無能なうえに不真面目な人に、自分の利害が絡む重要な業務を任せられるわけはありません。

ただ、ひとくちに人柄と言っても、〝公正さ〟と〝温かさ〟は意味する性格特性がかなり違います。さらに、世の中には、仕事熱心だけれども、他人に親切ではない、という人もたくさんいるはずです。

これらのように〝人柄〟に当たる要素はたいへん幅が広く、研究者によって考え方が多様です。〝誠実な姿勢〟と〝他者に良い行いをする姿勢〟との二つの要素に分かれると言う研究者もいれば、〝相手への配慮〟という一つの要素にまとめられると言う研究者もいます。もっとシンプルに〝感情〟というまとめ方もあります。

概念的な議論をしだすときりがないほどこの人柄要素には幅があるのですが、多くの調査の結果を見てみるとそれぞれの要素間の相関は高く出ます。つまり、真面目と思われる人は、正直で、努力家で、公正で、他人に配慮する人と思われやすいのです。

本書では、この人柄の要素をまずは〝動機づけ〟というふうにまとめたいと思います。動機づけというのは、日常用語では〝やる気〟や〝頑張り〟に近い概念で、少し堅く言うと、目標達成に向かって行動を開始させ、維持させる心理学的な構成概念となります。

先に人柄の下位要素としてあげてきた真面目さや公正さなどの要素は確かに多様なのですが、機能的な側面に目を向けると、いずれも業務目標に向けての頑張りを生み出す要素と解釈できます。また、動機づけは能力とペアにして考えると信頼の構成要素としてわかりやすいでしょう。

先にお話ししたように、有能な人がやる気を出して業務に当たればレベルの高いパフォーマンスが期待できる。この期待こそが信頼の源であり、これらが備わることで自分の利害を任せる気になる、という考え方です。

利害の一致

シンジ君 なるほど。誰かに何かを任せるときには、その人の能力とやる気が重要というのは、ストンと腑に落ちる話ですね。

ナカヤチ 本当にそう思いますか?

シンジ君 えっ! だって、ナカヤチさんがそう言ったんじゃないですか。

ナカヤチ もちろん、能力や動機づけは低いより高いほうが良いに決まっています。でも、私は信頼には、より根本的に重要な要素があると思っています。