「信頼される人」になるために、知っておきたいこと〜なぜ人は人を信頼するのか?

得るのは難しく、失うのは簡単
中谷内 一也

シンジ君 それは何といっても、青鬼を退治してくれたからじゃないですか。村人は「おかげで助かった」、「赤鬼ありがとう!」と思ったはずです。

ナカヤチ そうですね。赤鬼が自分たちに被害をもたらす青鬼を退治してくれた。言い換えると、赤鬼は自分たちに良いことをしてくれた。良い結果をもたらしたという実績が信頼を生んだと解釈できます。誰だって、自分に良いことをしてくれる人を信頼し、アテにするでしょう。

では、ここで趣向を変えて、元のお話にはない事態を想像してみましょう。

もし、両者が激しく戦った末、赤鬼が負けてしまっていたらどうだったでしょう? シンジ君が村人なら、負けちゃった赤鬼とはお茶なんて飲みたくないと思いますか?

シンジ君 うーん、そうでもないような。

ナカヤチ おや? おかしいですね。この場合、村人は青鬼退治というメリットを得られなかったんですよ。赤鬼は良い結果をもたらさなかった。実績が信頼を生むという理屈からすると、実績がなければ信頼できないということになるはずです。

さらにもし、赤鬼がボコボコにされて大けがをしたとしたらどうですか? 「憎い青鬼に何のダメージも与えられなかった。そんな赤鬼などまったくダメ、傷口に塩を塗り込んでやる!」となりますか?

シンジ君 そんなひどいことはしませんよ! 塩どころか、見舞いに行って薬を塗ってあげたくなると思います。自分たちのためにひどい目にあったんですから。

ナカヤチ ということは、赤鬼への信頼を生んだのは必ずしも青鬼を退治したという実績ではない、ということになりますね。

シンジ君 そうなりますね。

ナカヤチ じゃあ、何が信頼をもたらしたのでしょうか。青鬼に勝とうが負けようが信頼が生まれるとすれば、勝った場合と負けた場合に共通する部分に信頼の基盤があるということになります。それはいったい何でしょうか?

シンジ君 ……気持ちかなぁ。村人のために青鬼に立ち向かってくれた〝気持ち〟。勝とうが負けようが、村人を守りたい気持ちはあった。

ナカヤチ なるほど。では、もうひとつ思考実験をしてみましょう。もしも、青鬼から「来週、また村を襲ってやる」と予告状が届いたとしたらどうですか。ボコボコに負けた赤鬼を信頼して、「来週、もう一丁お願いします」と警護を依頼しますか?

シンジ君 絶対にしません! 気持ちだけではどうにもならない問題もありますから。

ナカヤチ じゃあ、やっぱり負けた赤鬼を信じていないのですかね?

シンジ君 うーん、ややこしいですね。それとこれとは話が別という気がします。

ナカヤチ 警護は依頼しないが、それは赤鬼の戦闘能力が低いと考えるから。この点では赤鬼は信頼できない。でも、重傷を負ってまで戦った赤鬼はいい奴だと思う。この点は信頼できる。そういうことでしょうか。

シンジ君 そうですね。一緒に逃げようって誘うかもしれません。

ナカヤチ 今日はこういった信頼をめぐるさまざまな問題について、心理学の研究成果を交えながら少しずつお話をしていきましょう。人は何に基づいて相手を信頼したりしなかったりするのか、どんなときに信頼は高くなるのか、などがテーマです。