絶対王者・羽生結弦は「メディア対応」も世界一〜イチロー、本田圭佑、北島康介とはココが違う!

森田 浩之 プロフィール

有森裕子、谷亮子、北島康介、松田丈志

現役アスリートの言葉がメディアに大きく取り上げられた最初の例を厳密にたどると、有森裕子の「自分で自分をほめたい」あたりかもしれない。

1996年のアトランタ五輪のマラソン女子で銅メダルを取った直後のインタビューで発した言葉だ。アスリートの言葉が「新語・流行語大賞」を獲得したのは、これが初めてだった(この言葉も、多くの人が「ほめてあげたい」と誤って記憶しているはずだ)。

柔道の谷(田村)亮子がオリンピックを迎えるたびに口にしていた一連の言葉は、かなり知られているだろう。

「最高でも金、最低でも金」(2000年シドニー五輪前に。結果は金)
「谷でも金」(結婚後の2004年アテネ五輪前に。結果は金)
「ママでも金」(出産後の2008年北京五輪前に。結果は銅)

〔PHOTO〕gettyimages

これだけ自己プロデュースの力にたけたアスリートは、きっと国会議員になるにちがいないと思えた。そのとおり谷は2010年に参議院議員になり、「国会議員でも金」とばかりに2012年のロンドン五輪出場をめざす意向を口にしたが、「二足のわらじで議員が務まると思っているのか」と批判を浴び、引退を決めた。

オリンピックでアスリートが発した名言の人気ランキングを作ったら、北島康介の「チョー気持ちいい」(2004年)と「何にも言えねえ」(2008年)のセットはトップの候補に入るだろう。どちらも100m平泳ぎで金メダルを獲得した直後にプールサイドのテレビカメラの前で発した言葉だ。

〔PHOTO〕gettyimages

「チョー気持ちいい」は、その瞬間の喜びを無防備に発散している。一方で「何にも言えねえ」は、五輪で2連覇を果たした自身の感動を涙とともにのみ込んだ末にしぼり出している。北島のふたつの名言はバランスがあまりに絶妙で、そのためにメディアでも語り継がれ、人々の記憶に残っているのだろう。

その北島を「ネタ」に使って、2012年のロンドン五輪を代表する名言を吐いたのが、競泳バタフライの松田丈志だ。「康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」である。

平泳ぎ100mと200mで五輪2連覇を果たしていた北島が、この大会ではどちらの種目でもメダルに手が届かなかった。北島にとってメダルを取る最後のチャンスが400mメドレーリレー。北島は第2泳者、松田が第3泳者として泳ぎ、日本は銀メダルに輝いた。レースの直後に松田が口にしたのが「康介さんを手ぶらで帰らせるわけにはいかない」だった。

この言葉には、時代の空気がほどよくブレンドされている。優しさ。軽やかな今どきの年功序列。そして「チーム」の価値。東日本大震災からまだ1年余りしかたっていなかった日本社会の空気が、柔らかに含まれていたことも確かだろう。