世田谷一家殺人事件、私は「真犯人」を知っている〜警察の致命的失敗とマスコミの怠慢

だから事件は迷宮入りとなった
一橋 文哉

私は03年に李の指紋をこっそりと採取し、旧知の警察関係者を介して非公式ながら世田谷事件の遺留指紋と照合した結果、不鮮明な指紋だったが、ほぼ一致するとの結論を得ている。

また、犯人が着てきたジャンパーのポケットから採取された土砂粒が李の出身地である韓国・京畿道水原市周辺のものと一致したことや、ヒップバッグから検出したガラスビーズを使っている印刷所に李が出入りし付着した可能性があるなど他の共通点も確認した。

これら事件の真相解明に繋がる新事実は、このほど上梓した拙著『世田谷一家殺人事件 15年目の新事実』(KADOKAWA)をお読み頂くとして、本稿は世田谷事件を迷宮入りに導きつつある警察当局の致命的失敗と報道各社の怠慢ぶりを明らかにしたい。

初動捜査の失敗

警察当局が犯した最大の過ちは、初動捜査の失敗である。

特捜本部は、犯人を「指紋や物証を随所に残し、自らもケガした“賢くない粗暴な若者”か“精神や性格に問題を抱えた人間”に違いない」と決めつけ、「捜査網を広げ不審人物情報を掴むか、病院で張っていれば即逮捕できる」と“油断した”としか思えない。

何しろ、現場で犯人がパソコンを操作したり電話器のコードを引きちぎった痕跡を見落としたか軽視し、未明に逃走したと思い込み緊急配備さえ敷いていなかったというからお粗末極まりない。

今や見込み捜査は最大のタブーだが、世田谷事件では一番大事な初動捜査段階で幾つもの見込み捜査(誤算)を重ねていたのだ。

最初の誤算は遺留指紋。警察庁の指紋自動識別システムをはじめ当局に登録された前歴者など約1200万人分の指紋にヒットせず、慌てて宮澤さんの親族や仕事仲間、交友関係、自宅周辺の住民ら2000人以上の指紋を片っ端から採取し照合したが、合致しなかった。

第2の誤算は、犯人がけがの治療のため医療機関に現れなかったことだ。都立駒込病院や広島市民病院など医療機関から「右手のけがの治療に現れた挙動不審な男がいる」と通報があり、有力情報だけでも事件後3週間で50件以上に上ったが、すべて事件とは無関係だった。そうした情報の確認に追われたことも、聞き込み捜査などが十分に出来なかった原因ではないかと言われている。