われわれが死んだ後、「本当はタバコはよかったのに」といわれることが必ず起きるとぼくは確信しています。

島地勝彦×黒鉄ヒロシ 【第3回】
島地 勝彦 プロフィール

シマジ でも妾の子のほうが本妻の子より優秀なやつがでると、よく明治の人はいってますよね。

黒鉄 あれは「本家に負けるな」というコンプレックスの一種でしょうね。

シマジ わたしが集英社に入社した49年前の話をしますと、そのころ小学館の関連会社の社長が集英社の新人であるわれわれを前にして「小学館集英社のみなさん」と挨拶されたんですね。まだ若かったわたしは「オレは小学館に入ったつもりはない」とこころのなかで思いましたね。

ヒノ そのころの集英社はまだ小学館の子会社みたいな規模だったんですか?

立木 だからシマジに“妾の子意識”があったんだろう。

シマジ いまでは売り上げは同等か、あるいは逆転したんじゃないかな。コミックダラー様々ですよ。ホントに凄いことです。

黒鉄 でも、日本の文学の危機を救ったのは漫画なんです。その伝でいくと、黒澤映画を救ったのは森繁久彌だったように。

実際、森繁さんから聞いた話ですが、当時の東宝は金がなくて、社長シリーズや駅前シリーズみたいなのを年に10本くらい撮るんですって。それで儲けた金を黒澤さんがふんだんに使って賞をもらう。森繁さんはこころのなかで「てめえ、この野郎!」って思っていたらしいですよ。

立木 それは正しい。面白い。わかるような気がするね。

シマジ 森繁さんの社長シリーズは漫画だったんだね。

黒鉄 家が一つの文化だとすると、屋根だけじゃなくて、縁の下やらなにやら、いろんな役割があるわけですよ。

立木 そういうものなんだろうね。派手にスポットが当たって賞なんかをもらっている連中の下には「ふざけんじゃねえ!」というやつが山ほどいて、その鬱憤をサカナに飲む酒がまた美味い。「おれが黒澤を育てたんだ」みたいなことだっていえるもんね。

シマジ タッチャンは黒澤監督の撮影現場に何度も足を運んでいるでしょう。ずいぶん可愛がられたんじゃないですか?

立木 撮影現場にはスタッフが大勢いて、オレなんかが可愛がってもらえるほどそばには行けないんだよ。映画の撮影現場は戦場みたいなものだからね。

黒鉄 でも立木さんはいい男でしたよね。遠目でもじつに目立っていました。

シマジ ホントに、本職のモデル連中が真っ青になるくらいのイケメンだったんだから。

立木 ダメダメ、褒め殺しは効きません。おれはそろそろ帰るよ。