研究者としてやっていくのに必要な「研究以外」のノウハウとは?

ボスは、あなたの何を評価しているのか
長谷川 修司

トラブル回避のカギは密なコミュニケーション

 上述の仮想ケースについて私がアドバイスできるとしたら(ただちに問題を解決できるわけではありませんが)、このような状況になってしまわないように日頃からうまく行動することが重要だということです。

 つまり、A君はこまめにB教授に研究の進展を報告し相談に乗ってもらうことで、B教授を自分の博士論文のいわば「共犯者」にしながら研究を進めるべきだったのです。

 ここで「共犯者」と言ったのは、密に議論して研究を進めている共同研究者という意味合いです。「共犯者」ならA君の研究の不完全さを非難できないことになります。自分にもその責任の一端がある、とB教授が感じるような状況にはじめからしてしまえばしめたものです。まさに、世に言う「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)が研究の場でも重要です。

 B教授のほうも、常日頃から学生と密にコンタクトをとる努力をして、学生が気軽に相談に来て研究の進展を一緒に考えられるような研究室の雰囲気作りをする必要があったのです。

 C助教は、そのようなコミュニケーションの潤滑剤の役割を演じることもできたでしょうし、あるいは、A君とB教授の「研究連合軍」に対して理性的に批判する「鋭いレフェリー」の役割を演じることもできたでしょう。

 しかし、ここでよく勘違いされるのですが、上述のように、A君がB教授やC助教とともに密に共同研究しながら書いた博士論文は「A君の博士論文」と言えるのか、と疑問視されることがあります。この心配は無用です。教授や助教のアドバイスを受けながらA君が主体的に研究を進めていれば、何の問題もありません。A君の立派な業績になります。逆に、指導教員や研究室の先輩とまったく独立に博士論文を仕上げるなどという状況は、普通ではありえません。

 それどころか、私の経験と観察によると、学生が密に指導者や共同研究者と議論しながら研究を進めている雰囲気の研究室でこそ、実りある成果が次々と出てくるし、優れた若手研究者が育っていくものです。実は、このような互いの気配りと役割分担は、優秀な研究室では当たり前のように行われているはずです。

 ですので、現在、活躍している研究者や研究室のボスが本書を読むと「当たり前のことしか書いていない」と思うでしょうが、高校生や大学生、あるいは一般の方が読むと、「なるほど、研究者はこんなことにも気をつかっているのか」と新鮮さを感じるのではないでしょうか。