研究者としてやっていくのに必要な「研究以外」のノウハウとは?

ボスは、あなたの何を評価しているのか
長谷川 修司

 しかも、研究者としてキャリアを積んでいく過程で、少しずつ異なる視点が必要になってきます。つまり、

・大学の学部の学生、そして駆け出しの研究者である大学院生のとき――第1~3章
・若手研究者と言われるポスドク・助教レベルのとき――第4章
・独立して自分の研究グループを持った准教授やグループリーダーレベルのとき――第5章
・大学教授あるいは研究所で大グループを率いる大ボスのレベルになったとき――同章

と各段階、それぞれの立場で考えるべき注意点やノウハウが異なるのです。そのようなノウハウ不足のために、大小はともかく、それぞれの段階でトラブルが発生するのを見聞きしています。

「人間的な」要素の重要さ――一つの仮想ケースから

 たとえば、次のような一つの仮想ケースを考えましょう。このようなトラブルは大学の研究室ではときどき起こるものです。

 大学院博士課程の最終学年のA君は、自分が今までやってきた実験の成果をまとめれば博士論文として合格すると思って、博士論文の骨格を研究室のミーティングで発表しました。すると、指導教員のB教授は、

「まだ不完全な成果なので、この状態で博士論文を提出するのは恥ずかしい。追加実験をやってメインポイントをもっと確実なものにするべきだ」

 と主張します。しかし、博士論文提出締め切りが迫っているので、追加実験をやっている時間はもうありません。A君は博士課程を修了したあと、4月から、ある研究所の研究員としての就職が決まっているので、博士論文の完成を遅らせるわけにはいかないのです。

 悩んだ末、A君は所属研究室の助教C博士に相談します。このような状況で、A君はどう振る舞い、C博士はどのような助言をしたらいいのでしょうか。その数日後、A君とC博士が連れ立ってB教授の部屋に相談に来たとき、B教授はどう判断したらいいのでしょうか。

 もちろん、このような場面で唯一の正解などありません。この状況でどう対応するか、教授か助教か学生か、立場の違いによって、また、それぞれの思惑もあり、意見が異なるのは当然です。研究者には、研究そのものに関すること以外に、このような「人間的な」要素が常に付きまとってきます。そのようなことに関して大学院生や研究者はもっと気をつかうべきだ、という思いを抱いたのが、本書を書いた動機です。

 ですので、本書では、ノーベル賞級の独創的な研究やインパクトのある研究をするにはどうしたらいいかといった話は出てきません。そのことは、たくさんの類書がありますので、そちらを参照してください。本書では、研究者が必要とする、もっと現実的な処世術やお作法のようなことがらを述べています。