流行語大賞はもう限界!? 「本当の流行」はグーグルが教えてくれる

今年の検索語No.1はあの言葉
森田 浩之 プロフィール

いま『紅白』についてそんなことを思っている人は、ほとんどいないだろう。あの歌手が出て、なんでこの歌手が出ないんだなどと文句を言う人は、もう絶滅危惧種に近くなっている。紅白に出るタイプの歌手と、出ないタイプの歌手がいるということが、みんなだいたいわかってきた。

それに、視聴者の好みが多様化しているから、一家で最初から最後まで一緒に見ることは、作り手側も想定していない。AKB48と五木ひろしの両方の歌を集中して聴こうという人は、そんなにいないだろう。若い子が『紅白』を見たとしても、AKBが終われば家を出て、友だちに会いに行く。年齢が上になれば、前半戦に出場しがちな若いアーティストは見ないかもしれない。

そんな棲み分けがそこそこうまくいっているから、紅白は昔の権威を失いながらも、まだテレビ番組としては破格である40%程度の視聴率を保っていられる。「新語・流行語大賞」もそのくらいの位置づけになれば、よけいな面倒を起こすことなく、末長く生きられると思うのだ。

〔PHOTO〕gettyimages

「爆買い」への蔑み、「トリプルスリー」へのプライド

今年の大賞に輝いた「爆買い」と「トリプルスリー」というふたつの言葉が、いかに「今年の世相」を反映しているかを読めと言われれば、それなりに深読みできないことはない。

まず「爆買い」が大賞になったことについては、中国人に代表される外国人観光客の増加ぶりを「頼りにしています」というニュアンスが感じられる。政府は日本にやって来る外国人観光客を2020年までに年間2000万人にすることを目標に掲げているが、その5年前でもうほとんど達成されそうな勢いなのだ。

日本を訪れる外国人旅行者を指す「インバウンド」という言葉は「新語・流行語大賞」にノミネートされた50語にも入っていたが、これが日本経済の「頼みの綱」という空気がなくもない。その「インバウンド」の激増ぶりを最もよく表している言葉が「爆買い」だ。

この言葉は、日本にお金を落としてくれる中国人観光客を歓迎しながら、同時に彼ら彼女らに向けられる微妙な目線を示してもいるだろう。「爆買い」という言葉がテレビで紹介されるとき背景に流れる映像を思い出してもらえればわかる。

たいていはやや太めの中国人の男性女性が免税店で抱えきれないくらいの品物をレジに持って行き、最後は全長1メートルくらいありそうなレシートをカメラに向けて見せるといったところだ。そこには少なくとも、感謝や尊敬のまなざしはない。

一方の「トリプルスリー」は、そんな中国を「抑えてくれる」はずのアメリカで生まれたベースボールというスポーツで、真に優秀な野手の指標となる言葉だ。

念のために書いておくと「トリプルスリー」とは、野球で1シーズンに打率3割、30本塁打、盗塁30個以上を達成することだ。ヒットも打ち、長打力もあり、走ることもできるオールラウンドな選手に与えられる栄誉ある称号ともいっていい。今シーズンの日本のプロ野球では、そのアメリカ由来のスポーツで「トリプルスリー」を達成した選手が2人生まれた。

世界野球「プレミア12」日本代表としても活躍したヤクルト・山田哲人選手〔PHOTO〕gettyimages

「爆買い」へのかすかな蔑みと、「トリプルスリー」への見えにくいプライド。今年の大賞はそのふたつが絶妙なバランスをとっていると言ったら、深読みしすぎだろうか。

わかっている。深読みしすぎなのだ。審査員の誰もこのふたつの言葉を選ぶときに、そんなことを考えていない。これは僕のこじつけでしかなく、仮にものごとの本質をいくらかかすっていたとしても、ど真ん中を突いているわけではない。

深読みしてもその程度なら、このふたつの言葉が今年を象徴する言葉に決まったというニュースに真正面から向き合わず、さらりとそのまま受け止めるか、嫌なら受け入れなければいいだけの話かもしれない。いつも、他のニュースではそうしているように。ちょうど『紅白』でAKB48をいちおう押さえたら、家を出て友だちと初詣に出かけてしまう高校生のように。

ところで、海外の「新語・流行語大賞」はどんなものだろう。英語圏(アメリカとイギリス)のそれには権威がありそうだ。