「ラグビーにヒーローはいません」。五郎丸はW杯を終えた後、涙を浮かべてそう言った。自分以上に称えたい人物に敬意を払っていたからだ。日本代表の選手たちに「男の中の男」を選んでもらった。
一歩外に出れば、カメラのシャッター音と声援を一身に浴びるFB五郎丸歩(29歳)が、「惚れた」男がいる。それは、W杯で、1分もピッチに立たなかった選手だった。
「日本代表で一人あげるとすれば、廣瀬さんですね。
僕は、目の前のラグビーのパフォーマンスをいかに高めるべきか、という狭い視野でしかとらえていないのに、廣瀬さんはラグビーを、これからの人生の中でどう位置づけるべきか、という広い視野でとらえている。
試合に出られない中でも、リーダーとして監督や選手たちとコミュニケーションをとりながら、チームを支え続けることはなかなかできない。自分にないものを持っているので、ひかれるのかもしれませんね」
SO廣瀬俊朗はエディ・ジョーンズ前監督の日本代表が発足した'12年に主将に任命され、2年間、チームを引っ張った。'14年にリーチマイケル(27歳)に主将を譲った後も代表選手の一人としてW杯に臨んだものの、結局、4試合で一度もピッチに立てず。33歳で挑んだ初の夢舞台は、近くて遠い世界だった。廣瀬が明かす。
「メンバー発表の日に自分の名前が呼ばれないのは悔しかった。でも、『悔しがるのはミーティングルームを出るまで』と決めていました。このチームが発足するとき、『日本で開催される'19年のW杯にむけて日本ラグビー界を変えたい』という大義があったからです。試合に出られなくても、やるべきことがあるんです。
苦しいことは『修行』みたいなもので、苦しいことを乗り越えたら、楽しいことが待っていると考えるようにしました」